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タンホイザー [2021年夏 バイロイト・ザルツブルク音楽祭]

現在、2021年の音楽祭の話を連載中。今日はバイロイト音楽祭の「タンホイザー」のお話を。
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オペラに詳しくない方のためにちょこっと説明すると、バイロイト音楽祭というのは毎年夏にドイツのバイロイトという田舎町で一か月ほど開かれるもので、ワーグナーの作品しか上演しない特別な音楽祭である。2021年は7月25日から8月25日まで、以下の5演目とコンサートが日替わりで数回ずつ開催。
・さまよえるオランダ人(オペラ、新演出)
・ニュルンベルクのマイスタージンガー(オペラ、2017年の再演)
・タンホイザー(オペラ、2019年の再演)
・ワルキューレ(オペラ、アート付き演奏会形式、)
・パルジファル(オペラ、演奏会形式、ティーレマン指揮)
・コンサート(ネルソンス指揮)

めぎはオペラを演奏会形式で見る趣味は無いので(つまり歌手の声だけを聴くのではなく演技や演出も含めて総合的に見たいので)、上から3つの演目だけをチケット手配。と言ってもバイロイト音楽祭は、チケットを買おうと思ってパッと買えるものではない。登録し、希望を出し、何年も抽選から外れ、7年ぐらい経ってからようやくチケットが割り当てられるというシステムである(応募した年数はカウントされている)。2021年は、2020年にチケットを割り当てられていたのに音楽祭が中止になってしまって来られなかった人だけにチケット割り当てをしたため、めぎは希望を出すことも叶わなかった。しかし、7月初旬に残席をオンラインで販売してくれて、めぎはそれでチケットをゲット。これはそのオンライン画面。
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販売開始の時間ちょうどにクリックして、5分ぐらいですぐにチケット購入画面に切り替わり、そこからはタイムリミットもあるので忙しくて写真を撮っていないが、無事に行ける日の行きたい演目のチケットをそこそこの値段で手に入れることができた。この日のタンホイザーは一番安い席で、一人40ユーロである。ちなみにタンホイザーはめぎ一人。うちのドイツ人はタンホイザーが嫌いなので、同行していない。
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でも、めぎは見たかったのだ。めぎはタンホイザーの音楽が好きだし、中学生のころタンホイザーの曲で校内合唱コンクールの練習をした懐かしい思い出もあるし、2019年のをテレビで見て、演出がとても面白かったから。やっと面白い演出に巡り合ったという感じ。うちのドイツ人にしてみたら、そういう演出はもう30年前にあったというのだが、そんなこと言われたってめぎは30年前に見てないし、めげないわ。だって、ホントに面白いんだもの。タンホイザーというのはあらすじをものすごく簡単に言えば、中世のドイツの吟遊詩人であるヴァルトブルク城の騎士タンホイザーが、かつてテューリンゲンの城主の姪のエリーザベトと清き愛で結ばれていたが、官能の女神ヴェヌス(ドイツ語でヴィーナスのこと)の異界(ヴェヌスベルクという山の中)に惹かれてそこで愛欲に溺れ、そこから再びこの世に戻ってテューリンゲンのヴァルトブルク城で「愛の本質」をテーマにした歌合戦に参加し、ヴェヌスを讃える歌を歌ったことから追放されてローマ巡礼の旅に出て、ローマ法王にも赦されなかったが、エリーザベトが自分の命と引き換えにタンホイザーを救った、という話(簡単にしても長い!)。そのオペラの原作からの演出上の置き換えやその内容については、日本語でこちらに写真付きでうまくまとめられているのでどうぞ。これは2019年の批評で、その時と2021年の今回は指揮者も違うし歌手も若干入れ替わっているが、演出の意図は同じである。ものすごく簡単に演出上の置き換えをまとめると、ヴェヌスベルクはサブカルチャー、ヴァルトブルクは高尚な芸術を象徴するバイロイト祝祭劇場、という対立構造になっていて、ヴェヌスはマイクロバスで移動する一団のダンサーで、その一団にはドラァグクイーンとブリキの太鼓のオスカルがいて、タンホイザーは一流になれなかった歌手なのだ。そして、バイロイト祝祭劇場を舞台として、劇中劇が繰り広げられるという演出になっている。オペラを見てみたい方は、こちらのオンデマンドをどうぞ。舞台シーンの写真はこちらで見ることができる。

プログラムには、公演と幕間の休憩が終わる時間が書かれている。第一幕は16時に始まり、だいたい1時間で、1時間ほどの休憩。第二幕は18時に始まり、だいたい1時間10分で、また1時間の休憩。その後20時10分に第三幕が始まり、終演予定は21時とのこと。そう、ワーグナーのオペラは長丁場。一昨日書いたように、16時に始まるのに15時までにワクチン証明を提示してチェックインしなければならなかったから、めぎは14時にホテルを出てから戻るまで7時間以上かかるという訳である。それから、始まる15分前からファンファーレで時間を知らせる、15分前は1回、10分前は2回、5分前は3回、とも書かれている。
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そのファンファーレというのはブラスバンドで次の幕のフレーズをちょこっと演奏するもので、まず第一幕の前にはこんなのが演奏された。これは10分前のものなので2回繰り返している。



そして、始まった。バイロイトは、最後のベルが鳴ると、扉が閉まり、鍵がガチャッとかけられる。その鍵の音が鳴り響くのが、閉じ込められた感じで結構怖いほどだ。そして、真っ暗になる。そして、すーっとホルンの音が鳴り響く…タンホイザーの序曲の最初のホルンの音が。それは、鳥肌が立つほどの素晴らしい瞬間である。序曲の演奏とともにスクリーンに映る新選出の映像を見ながら、めぎは一人涙がこぼれた。ああいいわぁ。ホント、いいわ~!マスクをしているので鼻をかむのも一苦労だが、ホントによかった。序曲の最初を聞いてみたい方は、こちらの6分50秒ぐらいから聞くか(これはラジオだがめぎが見た日の録音)、古い映像だけどこちらをどうぞ。



2021年のバイロイト音楽祭は、演じる側もコロナ対策。音楽家たちが普段から行動制限したりみんな定期的にコロナ検査をしたりしているのはもちろん、ソロ歌手は舞台で歌わざるを得ないけど、合唱は別室で歌わせてスピーカーで流したのだ。舞台上では別の合唱の人たちが口パクをしている。どんな風に聞こえるかなと思っていたが、ほとんど違和感がなく、まるで舞台で本当に歌っているかのように見えた。

そして、一回目の休憩へ。一幕目に見入って喉が乾いたので、一人ビールを飲んでのんびり。
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1回目の休憩が終わるファンファーレ。



二幕目も、映像に舞台にと見るのは忙しいが、非常によく寝られた演出でとても楽しめた。2回目の休憩は、アイスを食べた。そのとき、アイスを持った男性が歩いて行ったのをパチリ。ドイツでは、おじさんも普通にアイスを食べる。
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二幕目の映像でホールにヴェヌスが梯子でよじ登り、こんな黒い旗を掲げるシーンがあったのだが、休憩中にはそれと同様になっていた。黒い旗に書かれている言葉はワーグナー自身の言葉で、「意志における自由 行為における自由 快楽における自由」(訳はこちらから)。それをヴェヌスとドラァグクイーンとブリキの太鼓のオスカルが掲げるというのが興味深い。
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仲良く自撮りしているご夫婦をパチリ。
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2回目の休憩が終わるファンファーレ。ちょうどファンファーレがあるときにしゃべっている人がいて、その人に別の人がシッと言っている声が最後に聞こえる。



そして、終わった。
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このタンホイザー、ホントいい。もう一生他の演出のタンホイザーを見なくてもいいと思うほどよかった。なんというか、ドイツ語で言うと、frechなのだ。このfrrechを訳すのが難しいのだけど、厚かましくもよく真相を突いているというか、それをそうさらりとやってのけますか、とちょっとビビりつつ感心させてしまう感じ。うちのドイツ人に一緒に見てもらえなくて本当に残念だけど、こればっかりは仕方がない。一人で思い返してはああよかったな~と感動している。残念ながら無料で見られる映像は見つからなかったが、めぎはDVDを購入。ドイツ語での批評は例えばこちらこちら
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Baldhead1010

今日は新聞の休刊日。
全国的なものかな?
新聞のない朝はつまらないです。
by Baldhead1010 (2021-08-16 03:46) 

mm

↑そう、全国全紙ですよ。
ヨーロッパってこう言うものが充実していますね。タンホイザーは少しだけわたくしも知っているわ^^
by mm (2021-08-16 06:33) 

YAP

タンホイザーは、小学校のときに合奏で演奏したような記憶があります。
どんな曲だったかはおぼえてないなあ。
by YAP (2021-08-16 07:07) 

(。・_・。)2k

動画も良かったですけど
ファンファーレの動画がなんだかメッチャ良いですね
伝統というか そんな物を感じました

by (。・_・。)2k (2021-08-16 16:35) 

Inatimy

タンホイザーの序曲、と言葉だけではピンとこない私ですが、聴いてみて、
あ・・・とわかりました。昔、珈琲のCMで流れてて^^。
父もレコード持ってたかもしれない。
色々凝った演出で観るのも忙しそうな、充実した上演だったんだなぁと
紹介されたリンク先を読んでしみじみ。
30年前にあったという演出のとも比べて観てみたくなりますね。
by Inatimy (2021-08-16 17:52)