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葬儀と埋葬とその後 [文化の違い]

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昨日からザクセンでの葬儀の話を連載中。

ここはドイツ東部ザクセンのある町の外れにある丘。
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こんな緑の綺麗なところに、墓地がある。
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墓地の入り口をくぐると・・・
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そこには礼拝堂が。
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中に入ると、カールがいた。
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一番前にはうちのドイツ人の母親の供えたリースが。あなたの○○と子供たちより愛と感謝を込めて、とリボンに印刷されている。
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葬儀屋さんが教会の2階部分から写真を撮ってもいいですよ、と言ってくれたので、式の始まる前に撮影。
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向かって左側の一列目に義母とうちのドイツ人とめぎが座り、その後ろにはブルシェンシャフト(カールの属していたナショナリストの団体)の人たちが並んだ。向かって右側にはカールの家族と親戚たちが参列。そして写ってないけど手前にも8~10列くらい席があって、そこに近所の人や古い友人、義母の遠い親戚などが参列した。棺の上にある花束はカールの家族からのもの、左側はイェーナ大学のブルシェンシャフトからのもの、右側のと手前のは分からない。棺が祭壇ではなく参列者に囲まれた形で同じ水準にあるというのが非常に興味深い。十字架は棺を見下ろす位置にあり、牧師も棺を上座から見下ろす形で話す。死者を「仏さん」と呼んでお坊さんが拝む形の仏式の葬式とはずいぶん位置関係が異なる。

2階にはオルガンが。
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このあと参列者たちが次々と入ってきて、そのたびに新しくお供えのお花が増えていき、棺の周りは花でいっぱいになった。そしてこの小さな礼拝堂が満席になったのだが、その中で外国人はめぎ一人。ハッキリ言えば最も遠い存在であるはずのめぎが、ドイツ・ナショナリストたちを後ろに従えて、棺を挟んでカールの家族と向かい合わせに第一列目に座るというのは、なんとも形容し難い経験だった。礼拝堂に足を踏み入れた人は誰もがまず喪主のいるべき位置を見るから、そのすぐ横に座っているめぎをじろじろ見る。知っている人は、あああれがアジア人の義娘ね、と、知らない人は、あの東洋人は誰?と。そうそう、めぎの後ろに座ったブルシェンシャフトの一人が、慇懃に義母とめぎたちに挨拶をしたあとで、後ろの席に座るなり「早くビール飲みたいね」と仲間に話しかけていたのが可笑しかった。そういうのはどこの国も同じね。

義母は、埋葬の際に手向けようと、カールの大好きなユリの花を庭から摘んできた。
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13時を過ぎて牧師が前に立ち、賛美歌の何番を歌いましょう、と言った。各席の横には賛美歌の本が数冊ずつ置いてあり、それを開いてオルガンの伴奏でみんなで歌った。歌が終わると、牧師が長い長いお話をした。カールの生い立ちを生まれから亡くなるまで全て詳細に語ったのだが、そのために牧師は前日に義母のところに取材に来たそうだ。そこではありのままに、ブルシェンシャフトの活動のことや、結婚のこと、そして義母とのことも全て触れられた。そして、死者を前に両者にFrieden(フリーデン=「平和」という意味だけど、ここでは平穏に折り合いをつけろという意味なのだろう)を諭したのだった。その穏やかで思いやりに満ちた口調と毅然とした態度は非常に好ましかった。

それからブルシェンシャフトの代表者がお別れの挨拶をし、牧師が聖書の一説を読み、みんなでもう一つ賛美歌を歌って式は終わった。これはプロテスタントの式で、カトリックはこれとは異なるのだろうが、どこがどう違うのか詳細は分からない。たぶん香煙を薫かないところが見た目でハッキリ分かるカトリックとの大きな違いだろう。棺は式の間後ろに控えていた大きな男性たち4人に担がれて荷車に乗せられ、墓地へと運ばれた。その後ろに牧師が、その後ろに義母が、その後ろにはうちのドイツ人に先に行って欲しかったのだけど、レディファーストでめぎが続いた。これはめぎには正直なところ全くもって居心地が悪いというか、カールの家族に本当に申し訳ない気分だった。しかし、これらの参列の序列は全て牧師が最終的に決めたことだから、めぎは従わざるを得なかった。こんな墓地の中をしずしずと進み・・・
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お墓の場所に到着すると、棺はこうして墓の上に置かれた棒の上に載せられ・・・
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白い紐で支えながら棒を引き抜き、少しずつ土の中へ下ろされていった。そのとき、義母が初めて涙を浮かべ、Schlaf schön. (安らかにね)と呟いた。あら、「魂のないご遺体」へそんな言葉をかけるとは。前日に聞いた話とちょっと矛盾を感じためぎ。こういうときに自然にわき上がる感情は、宗教や頭では説明できないものだということかしら。その後牧師がもう一度祈りを捧げ、土を投げ入れ、花を投げ入れ、それに従って義母、めぎ、うちのドイツ人、カールの家族・・・と参列者が次々に花を中に投げ入れた。一通り花を投げ入れたらそれで儀式は終了し、みんな義母とめぎたちに挨拶をしてここを去っていった。
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あの緑の下に土があって、あとで葬儀屋さんが全て埋めるらしい。最後まで見届けないで去ってしまうというのも非常に興味深かった。
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向こうにカールが住んでいた町が見える。
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お墓のその後についてはまた明日。

埋葬のあと、義母は小さなお別れ会の席を準備していた。カールの家族以外の全員がここへやってきた。
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ここで、多くの人たちから、あなたが有名なめぎさんですね、と話しかけられた。義母の友人たちは私の着物姿の写真などを見たことがあって、今日実物を見るのを楽しみにしてきたのだそうだ。まるで動物園の猿のような気分。また、この次の日に義母が我々と一緒にデュッセルドルフに気分転換に行くことを誰もがもう知っていて(義母は喜んでそれをみんなに話しまくったらしい)、あなたはとても親切ね、と賞賛されたのだった。

カールの好きだったザクセンのビールをナショナリストさんたちと一緒に賞味。
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ブルシェンシャフトの団体は、団員の冠婚葬祭のときには正装で駆けつける。この人たちは現在の学生団員さんたちで、もちろんカールとはなんの面識もないが、この日学生代表としてイェーナからやってきた。運転手役の一人のみ、ビールを飲んでいない。
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実は彼らはお葬式の間中ブルシェンシャフトの正装をして立派な旗を持って控えていたのだが、式の間は撮影できなかった。それがとても残念だったと話しかけたら、彼らは快くもう一度服を着て、撮影に応じてくれた。
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ビロードの重い上着を着て、皮の白い手袋をはめて、暑いのにごめんなさいね、と言ったら、いやあ先日のミュンヘンでの結婚式のときは炎天下に5時間もこれを着ていなきゃならなかったから、それと比べたらたいしたことないですよ~ですって。旗の代わりに剣を持って撮影。なんて気のいいナショナリストの卵たち。学生たちはどこも同じく若くてまっすぐで可愛いな。これがナショナリズムに向かうと思うと空恐ろしいけれど。

昨日の到着時が嘘のようにいい天気だった。
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laf

おじさんの父親は、10人兄弟の末っ子で、明治生まれ。
昔々、父親の義姉や母親の祖母は、土葬でした。
丸い樽の中に、座って居たことを。
田舎でしたから、長い長い行列の中を、先祖の墓まで歩いたことを、思い出しました。
母方の方は、360年も続いた古い庄屋さんで、墓の途中に土葬用の土地があり、何年かしてからお骨を掘り出して、本家の墓に埋葬していました。
その場所は、周りがみかん畑になり、今は、土葬もないので近所の駐車場になっています。
本家の墓は、両方とも山の中腹で海がきれいに見えるところです。
牧師さんが、取材して、生まれから亡くなるまで全て詳細に語っる話は、国が違い、宗教が違っても、同じように、お坊さんが話していたことを思い出しました。

by laf (2011-08-06 04:30) 

Baldhead1010

こちらでは土葬の場所がなくなりました。
by Baldhead1010 (2011-08-06 07:29) 

MOCOMOCO

お疲れ様でした。
教会での葬儀の様子や埋葬の様子など、初めて見るものばかりで
とても興味深かったです。
めぎさん、お義母様のご友人の間では有名人だったんですね^^
今頃はお義母様もめぎさん宅でゆっくりされている頃かしら。
by MOCOMOCO (2011-08-06 08:12) 

YAP

海外では文化の違いに驚くことがたくさんありますが、葬儀はその中でも格別な印象となりそうだと思いました。
雰囲気からして大きく違いますね。
by YAP (2011-08-06 08:18) 

ちばおハム

どこの町もよそからやってきた人には興味を示しますよね。
私もいまだに言われてますよ。
どこからきたの?県外だよね。は最初の質問です。

by ちばおハム (2011-08-06 08:56) 

HIROMI

日本のお葬式でも、式場の席順はいろいろと悩むところですね。
「え?わたしがこんな上座に?」なんて思うこともあったり。従兄弟のつれあいのお父様の葬儀は、親族席なのか?それとも一般席なのか?とか。
レディーファーストでめぎさんが先、というのも新鮮でした。日本では絶対に男の人が先ですもんね。
by HIROMI (2011-08-06 09:11) 

rinochi

何もかも文化の違いを感じますね。日本の文化でさえ、経験してみないとわからないところですが。

by rinochi (2011-08-06 10:48) 

テリー

お棺で、埋めるというのがすごいですね。土地に余裕があるのがうらやましい。日本では、とても、できないですね。
by テリー (2011-08-06 10:49) 

mimimomo

宗教の違い、お国の違い・・・ほんとうに全く違うお葬儀、日本なら納骨ですが、埋葬の儀。
その方の経歴を読み上げると書かれた所で、思い出したのは、日本の神道のお葬式。神道でも経歴を読み上げるのですよね。わたくしの姉が亡くなった時
まだ若かっただけに涙があれて止まらなかった事を思い出しました。
by mimimomo (2011-08-06 13:16) 

krause

全く異なる宗教と文化なのに、どこか似た空気が漂うのは、同じ葬式だからでしょうか。
by krause (2011-08-06 13:27) 

あかえび

日本だと国旗と国歌を肯定するだけで「右翼ですか」って言われる事が多い。どこの国でも国旗や国歌は大事にするものだと思うんだけどな~^_^;

ナショナリストって愛国者とは違うのかな?
by あかえび (2011-08-06 15:24) 

マリエ

りっぱな棺ですよね、埋めてしまうのがもったいないような~父の葬儀を思い出しました。義母様やはり涙されたのですね。
by マリエ (2011-08-06 20:18) 

gillman

とても興味深い記事でした。ぼくも外国からの留学生に日本の色々なセレモニーのことについて説明することがあるのですが、それってその文化の大事なとこですよね。どの国の風習にもそれなりのレスペクトが必要だなぁと思いますね。
by gillman (2011-08-06 20:29) 

miffy

映画の中でしか見たことのない世界です。
お葬式は宗教、文化が違ってもなんとなく似たような雰囲気が漂いますね。
by miffy (2011-08-06 22:17) 

ぽりぽり

これは、興味深いです。ドイツの一般的な葬儀でしょうか? お別れ会は、やはりビールなのですね。
by ぽりぽり (2011-08-06 22:32) 

もんとれ

>なんて気のいいナショナリストの卵
なはは。不謹慎だけど笑ってしまったわ。
>それがとても残念だったと話しかけたら
めぎちゃんのこういうところが、すごく好きなのよね。
by もんとれ (2011-08-07 04:41) 

Inatimy

リースに向日葵、季節感があっていいな。
日本のお葬式のお花とはまた違ってて、
故人の好きだったお花を、というところも、素敵。
by Inatimy (2011-08-07 06:16) 

manamana

これを機に一層ドイツの社会に根を下ろしましたね。
by manamana (2011-08-07 12:00) 

たいちさん

一人だけ異文化の中、注目されお疲れ様でした。
牧師が故人の経歴を詳細に披露するのは、いいことですね。
日本では、長々とお坊さんが読経するのが、ほとんどですもの。
by たいちさん (2011-08-07 12:12) 

ネム

区画された、砂利と石ばかりの今の日本のお墓と違って
木々と草花に囲まれた、静かで美しい場所ですね。
祖父母の時も感じたのですが、土に埋もれ自然に帰るのは
とても当たり前で幸せなような気がします。
by ネム (2011-08-07 22:33)