SSブログ

伯母訪問 [2010年夏 日本の旅]

ax.jpg

海外に住むと、慶弔関係を含め色々と不義理を働くことが多い。だから、日本にいる間に色々な人に会っておきたいし、会わなければならない人やあいさつに行くべき人もたくさんいるのだけど、限られた滞在の中でそれを全て叶えられるはずもない。日本に来ていながら顔も出さないとはなんと失礼な!と思っている人もいると思うし、どうして連絡くれなかったの!とあとからお叱りをいただいたことも多々あった。こうしてさらに不義理を重ねていくんだな・・・ああ。

今回幸運にもお互いの都合が合ってお会いできた人たちの中に、父方の伯母がいる。兄弟姉妹の多い父の一番上の姉。不義理に不義理を重ね、数年前に妹の結婚式で会ったのも15年ぶりくらいだった。そのとき、長い間生業としてきた漫才師の人生にピリオドを打ち、兄弟の誰にも迷惑をかけません!と断言して自立型介護付き有料老人ホームに入る決断をしたという話を聞いた。芸能人として生きた人が全てを畳んで老人ホーム暮らしをするのって、どうも想像もつかない気持ちでそれを聞いた一方で、その潔さに清々しさを感じたものだった。その後どうしているのかしら?折しも去年から今年にかけて父方の伯父や伯母が相次いで亡くなり、小さい頃以来父方の親戚とあまり接触してこなかったことに改めて気付き、思い切って訪ねてみることにした。

伯母の住んでいるのは、こんな南国みたいな景色のところ。
a1.jpg


建物の中は広々としていて・・・
a12.jpg


共用スペースも窓も多くてなかなか快適。下手なホテルやマンションよりずっと綺麗。
a2.5.jpg


部屋からの見晴らしもよく、ここがかなりのレベルの施設であることが伺える。
a4.jpg


でもね・・・お部屋は本当に小さくて、真ん中の収納みたいに見える扉の向こうは小さなキッチンやら冷蔵庫やらが隠れているし、お客さんと一緒に座ってお話しするにはこんな小さな空間しかないの。それでも、めぎは首都圏でこれよりもっともっと狭いワンルームマンションに住んだことがあるから、ここの立地条件でこの間取りは十二分に広いということは分かってるんだけど・・・首都圏で歳をとって独りで住むというのは本当に大変なことね。
a5.jpga8.jpga6.jpg


なるほど、こういう物を毎日食べて・・・
a17.jpg


体操やら習い事やらイベントやら、結構忙しい毎日を送っているのね。めぎが妹と伯母を訪ねたのは7月17日11時のこと。ちゃんと予定表に書き込まれていた。
a18.jpg


持ち物のほとんど全てを処分してここに来たという暮らしは、つまりこういう感じ。必要最小限。
a9.jpg


首都圏で、羽田からも成田からも便利な直通バスのアクセスがあって一時間もかからないくらいのところで、これだけ自立した生活をしつつ至れり尽くせりのサービスを受けて、介護も病院もついているから生涯を閉じるまで何が起ころうとも心配することもなく、これは非常に恵まれた環境だということができるだろう。それが手に入っているのは、それだけの費用を支払っているからでもあり、この暮らしは伯母が長年頑張ってきた代償として手に入れたもの・・・50年間も続けた芸能生活を引退し、全く新しい生活を始める・・・きっといろんな思い出の品があっただろうに、それを一切処分して、長い間住んだ家も処分して、多くの知人や仕事仲間とも離れてここで新たに一人暮らし。ああ、人間の一生とは、まさに萩の上露の如し。めぎはこの安定した老後生活を手に入れるだけの努力をした伯母を心の底から尊敬するのだが、華やかだった人生が収束に向かって行くにつれてこうして生活が縮小していく様相を見ると、どうにもこうにも淋しく切ない気がするのだった。しかし、伯母はさばさばしていて、まるで現役の頃のように生き生きとしていた。この突っ走り感や、思い切りの良さや、後を振り返らずなんの後悔もないところ、考えてみるとめぎもそっくり。ホント、血は争えないわね。

いろんなことを説明してくれるその話の回転が速くって。さすが、プロの話し手だわね~
a20.jpg


それまでの人生は思い残すことなくやりきった、これからは第二の人生を新たに楽しもう、新たにたくさん吸収しよう、という意欲に溢れていて、色々な催しに参加して趣味も広がったようだ。その一つ、絵手紙の作品をそのお手本とともに見せてくれた。
a15.jpg
a11.jpg


↑「二人ぼっち」・・・伯母よりもひとまわりも若いのに病気で引退せざるを得なくなり、伯母のいるところからずいぶん遠いホームに入っているためなかなか思うように会えなくなった相方さん。家の慶弔の折にはいつも一緒にいらしたから、めぎも何度か会ったことがある。漫才師は仲が悪いという話をよく聞くけれど、伯母と相方さんは本当の姉妹のように仲がよく、こうして離ればなれになってもいつも相方さんのことを思いやっているようだった。
a10.jpg

↑伯母の方がボケ役だったのだけど、本物の伯母はものすごく頭の回転の速い、聡明な人。だからこそ芸能界で長い間生き残っていけたんだろうな。ほんの数年前まで寄席に出ていて、今も80歳近いとは言えこんなに元気なのに、引退しちゃったなんて勿体ないな。一回りも若い相方さんの方が病気だなんて、人生はなんと残酷なんだろう。

伯母は現役時代から今の生活のことまで短歌(趣味で五七五七七で想いを書き留めるという意味での短歌)に詠んでいて、それをきちんと残すよう編集しているようだった。実はめぎも東京にいた頃ある短歌の会に所属して同人誌に短歌を発表していたことがあったのだが、伯母も同じようなことをしているなんて、血のつながりってすごいわね。引退の時のエピソードなど、その短歌を見ただけで涙を誘うのだが、期せずしてめぎの全然知らなかった祖父のエピソードなども出てきて、長い間の不義理の所為で欠けていた自分の身の半分がようやく紡がれていくような気がした。
a13.jpg


下の絵は伯母のオリジナル作品。自らの一生を想いながら描いたもの。今、めぎは人生のどの季節にいるのだろう。年齢から言えばちょうど綺麗な茜色のところかしら。もう少ししたらどんどんくすんでいくはずで、現実でも病気になったり、今よりもっと老後のことを考えたりする日がやってくるのだろう。冬の季節に入ったとき、めぎはどこでどのように暮らしているのだろう。伯母のように、自分で自分の終の棲家を定め、最後まで凛としていけたらいいな。どのような暮らしになろうとも、そこでのびのびと、心がこのようにまっすぐで、ひたすらでありたいな。
a14.jpg


冬の最後がちょっとだけあったかい色合い。そのことにちょっと救われる。
nice!(53)  コメント(27) 

nice! 53

コメント 27

もとこさん。

う~ん 色々な人生があるものですね。せいぜい百年前後、宇宙や地球の生命から見たらほんの一瞬なのに、やはり人生は長く、決して単純なものではないんですね。
by もとこさん。 (2010-08-27 02:20) 

Baldhead1010

老後、今の日本の制度では不安ですね。
by Baldhead1010 (2010-08-27 05:12) 

tanpopo

そうなんですか…複雑な思いになりました。芸能生活から今の生活に移られて、寂しい面も大きいと思うのに、伯母さまは凛としていらして素敵ですね。絵手紙の絵がお上手なのにも驚きました。めぎさんたちに会えて、とてもお喜びになったことでしょうね。献立表を見ながら、ちょっとだけ姉のことを思い出しました。私も今度会いにいこう。
by tanpopo (2010-08-27 05:58) 

manamana

一切を捨てて・・・
歳をとるにつれてその大変さに思い至るようになってきました。
by manamana (2010-08-27 06:22) 

krause

潔さ、素敵です。私も、いつもそうありたいと思っています。
by krause (2010-08-27 07:55) 

YAP

歳をとるって、こういうことなんだろうなあと思いました。
私はけっこう老後を楽しみにしているところがあります。
同窓会で旧い友人と話をしていると、都会に住んでたまに海外出張に行ったりする私の生活は華やかに見えるようですが、人混みに疲れ、仕事に疲れ、現実はまったく違います。
いつかそんな生活も終わり、ゆっくりのんびり、ひっそりと生活できる日が来るかと思うと、ちょっとうれしくなります。
by YAP (2010-08-27 08:20) 

ナツパパ

悠々自適とは言いつつも、いろいろと思いがあることでしょう。
定年で仕事はすっぱり辞めて、あとは好きなことを...と割り切れたらいいのでしょうが。
わたしも父も自営業なので、そのあたりは難しそうです。
今年87差の父は未だ現役で、辞める気配はありませんねえ。
by ナツパパ (2010-08-27 08:20) 

laf

日本での老後、介護保険で、在宅の道が少し開けたけど・・・。
施設もいっぱい出来たが、外観より中は、酷いのが実情。
お金があって良い施設に入れても、認知が出て他人に迷惑をかけるようになると、問題児になり、施設やスタッフの対応も変わってしまう。
人から物になってしまうこともある。
家族が介護できるのが一番だけと、・・・・・。

子供手当など、ばらまきで機嫌取りを考えている今の日本。
このままだと、安心できる老後は、20~30年後もまだ不安な状態のままだと思います。

by laf (2010-08-27 08:32) 

piano

素敵な伯母さまですね!
最初の一時帰国に時にいろんな人に会おうと
めいっぱい予定を入れたら疲れちゃいました^^;
なかなかお会いできない人いますねぇ。。。

by piano (2010-08-27 08:36) 

くっさん。

長い間、芸能界で過ごされてきたから、「普通の女の子に戻りたい」って気持ちだったのかもしれませんね。第二人生を再スタートされているって感じます。
最近、行方不明の高齢者が問題になっているので、最後を、どのように過ごすかって、考えますね。
by くっさん。 (2010-08-27 08:42) 

ひろころ

老後をどう生きるか。人生に置ける大きな問題ですよね。
凛として背筋の伸びた生き様だなぁ、と憧れの気持ちで読みました。
それにしても、ステキな絵を描かれますねぇ☆
知性と品性の高さが滲み出ています(^^*)
そもそもボケ役って賢くないと出来ませんものね(笑)
by ひろころ (2010-08-27 09:09) 

たいちさん

自分の人生設計をきっちり立てておられる伯母さん立派ですね。私自身のことを考えると反省しきりですね。
by たいちさん (2010-08-27 10:37) 

やよい

素敵な伯母さまですね。
身辺を最小限に整理するって 大変なことですよね。
by やよい (2010-08-27 11:44) 

のの

おじーちゃんっ子だった私はよく一緒に
漫才番組見てましたので、叔母様がどなたなのか
メチャ気になりますが(><)聞かないでおきます。
それにしても、潔いその生き様に感心いたしました。
私もそんな人生終盤であれたらいいな・・と
見習いたいです。
by のの (2010-08-27 15:29) 

Ranger

でも、こんな設備の整ったホームでお住まいで恵まれてますね
Rangerも、老後は海の見えるところに住みたいな

それにしても、叔母さん漫才師さんだったんですね!^^
by Ranger (2010-08-27 15:55) 

マリエ

現在進行形で介護をしている母と重なるものがありなんだか重く読ませてもらいました。自分の老後もとっても不安ですが・・・・何とかなるかなと思って今を一生懸命生きています。めぎさんの性格が伯母さんに似ているって読んでいて感じましたがやはりそうだったんですね。とても参考になりました。しっかりしなきゃぁって思いました(^_^;)
by マリエ (2010-08-27 16:00) 

ぽりぽり

食事の心配がないのが良いですねぇ。自分は足腰立つまで、自宅で暮らしたいと思っていますが、その年齢になったら気持ちがかわるかも。。猛暑の中、よくこれだけ活動的に動きましたねぇ。めぎさんに脱帽です。
by ぽりぽり (2010-08-27 16:51) 

nachic

心と体が枯れない老後でありたいです。。。
by nachic (2010-08-27 17:54) 

HIROMI

わたしも、死ぬまで生活の心配のない環境で暮らしたいなあと思います。でもそれには、そうとう稼がなくっちゃね。
by HIROMI (2010-08-27 19:05) 

のび太

老後の事、、気になりますね。
今を大切にしたいです。
by のび太 (2010-08-27 19:14) 

香草

いろいろと考えさせられました。
by 香草 (2010-08-27 21:19) 

母ちゃん

最初の絵はどちらを描いたものでしょう? 何だか見たことのある風景に思えました(^^)
by 母ちゃん (2010-08-27 21:54) 

Inatimy

慶弔関係の連絡を受けても、なかなかすぐには帰れないですよね。
飛行機も満席で席が取れなかったり・・・よ~く、分かります。
by Inatimy (2010-08-27 22:59) 

rino

老後という終盤の人生を潔く、明るく、前向きに生きていたいものですね。考えると不安に思うこと多いのですが、記事を読ませていただいて、少し勇気付けられました。お忙しい滞在期間だったのでしょうが、妹さんと伯母様の訪問が叶えられて良かったですね。
by rino (2010-08-27 23:02) 

Bonheur

日本にいらっしゃるめぎさんのご親戚は、めぎさんのことを、否定的な意味で「不義理」とはおもってらっしゃらないのではないかと拝察します。「遠く欧州へお嫁に行って彼女はそれはがんばっている」と応援していると思います。
母国で生きて行くことでさえ大変なことですものね。
伯母さまとめぎさんは気立てが似てらっしゃるのですね(^u^)
めぎさんもドイツ語でも日本語でもお話し上手なんだろうなと思います。
by Bonheur (2010-08-28 03:12) 

もんとれ

不義理なんかじゃないさ。えらいもんだよ、めぎちゃん。
by もんとれ (2010-08-29 05:14) 

どらっち

帰ってこさせるのもなんだからと、亡くなったことすら
知らせてもらえないのも、なんだかなぁ・・・と思う
今日この頃です。
by どらっち (2010-08-30 06:40)