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ディノの逝去 [小さな出来事]

2018年5月12日は、ドイツの歴史に残るひとつの出来事が起きた。
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ディノが死んだのである。
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ディノというのはドイツ語で恐竜のことで、恐竜と呼ばれていたのはHSV、つまりハンブルクのサッカーチーム。なぜHSVが恐竜なのかと言うと、1962年にブンデスリーガが出来て以来55年間、最初から参加し今まで一度も2部に陥落したことのない唯一のチームだったから。今をときめくバイエルン・ミュンヘンだって、ブンデスリーガに昇格したのは1965年なのだ。
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そんな歴史あるチームなのに、ここ数年は2部陥落かという危機を毎年迎え、最終節で残留を辛うじて決めるとか、入れ替え戦に勝ってどうにか持ちこたえるというのを繰り返していた。そのたびに、HSVはディノだからね、と言われていたのだった。ディノは最後の最後に生き長らえる、という暗黙の了解のようなものがあった。しかし、とうとう、ディノが死に絶える日が来たのだった。この写真はシュピーゲル・オンラインから。正確に言うと、1962年の最初の試合の笛からこの12日の試合の最後の笛まで54年261日0時間36分5秒間でディノの記録が途切れたということである。
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62歳のうちのドイツ人にとって、ブンデスリーガは彼の人生とともにあった。ハンブルク育ちの彼にとって、HSVもまた彼の人生とともにあった。このところ世界の右傾化が進み、これまでの平和への様々な努力が不意になっていく傾向にあり、彼は「この世はもう自分の生きてきた世界とは異なる世界になってしまった」と嘆いて、極端だがもはやあまり生きる意味を見いだせなくなってきたようだったのだが、ディノの逝去はそれに決定的な打撃を与えたようだった。それは、ただ弱くなったというのではなく、ここ数年組織として色々問題があるようで、経営者はお金と保身のことしか考えていないように見えて、それが今の世界の状況と非常に重なるのだ。
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まあそうは言ってもうちのドイツ人にはまだ何年か、このまま健康なら少なくとも十年、うまくいけば二十年は人生がありそうなのだが、いろんなものが終わっていくのを見るのは本当に寂しいのだろう。めぎだって、日本にいた頃DASHとかスマスマとか番組が始まった頃のを楽しんで見ていたのだが、そのグループがそれぞれあららあららという状況になっていったのをネットニュースで知り、なんとも寂しい気分になっていたのだ。サッカーチームやアイドルグループの没落でこちらの人生が終わるわけではもちろん無いけれど、自分の生きてきた時代が終わりを告げ、その時代をともに生きてきたものから問題が浮上し壊れていくのを見るのは切ない。

12日のサッカーニュースは、いつになく神妙な雰囲気だった。2部降格を巡る残留争いは毎年熱く語られるのだけど、今年のディノの逝去は一時代の終わりを伝えるものとして、重く取り扱われていた。2ヶ月くらい前からこの日が既に予想できていたとは言え、みんなやっぱり奇跡が起きてディノは残留するんじゃないかというような気がしていたのだ。あんなにダメだったのに最後の最後に最終節まで縺れたのは、残留できるからじゃないか、と。
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こうしてディノは死に絶えてしまったのだが、もちろん世界が終わるわけではなく、次の日はやってくる。HSVは2部リーグで新たな人生が待っている。そろそろ仕事引退のうちのドイツ人にも、仕事の無くなった後の人生というものが待っている。
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12日の最終節では、この日で引退する選手のことなども話題になった。5月15日にはドイツ・ナショナルチームのW杯の選手が発表される。まだ仮登録で6月4日までに更に絞るのだが、少なくともそこに誰が選ばれるのかが注目される。このように、終わるものもあれば継続するものも始まるものもある。めぎはまだまだ継続するものに属する現役なのだが、状況はこの薔薇のように盛りは過ぎたというところ。
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自分が本当に引退するまでに、これから何がどのくらい変わっていくのだろう。環境の変化の中でも尚、しなやかに、しぶとく、静かに全うできたら良いな。願わくば渋く薫香あるドライフラワーになりたい。でも、ただの枯れた花でも悪くない。美しく咲いた時期がめぎにもあったのだから、それでよい。

撮影: D600 + Voigtländer Ultron 40mm(F2)


♪ おまけ ♪

ブンデスリーガと言えば、デュッセルドルフが一部リーグに返り咲くことが決定。13日の最終節では2部リーグ優勝も決めた。デュッセルドルフの宿敵ケルンは早々に2部リーグ陥落が決まり、今年は1部リーグ最下位だった。ホント、サッカーって無慈悲だわね。
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Baldhead1010

年日時分秒・・・EN,ENと続くんですね。
by Baldhead1010 (2018-05-14 04:35) 

mimimomo

凄いですね~何方かが秒の単位まで計算して・・・ わたくしは昔から見ていたテレビの役者が亡くなると、何だか自分の過去を削り取られるような酷く寂しい気分にさせられます。
by mimimomo (2018-05-14 07:25) 

YAP

どんなに強いチームや選手であっても、いつかは敗者になるときが来るということですかね。
それは私たちの人生にも当てはまるわけで。
そのことを常に意識しておくのは重要だと思います。
by YAP (2018-05-14 07:55) 

momo

昭和の名優さんが亡くなる度にそう感じます。
一つのことを引退しても、また「次」が始まることもあるし、
人生何が起こるかホントにわからない。
わからないからこそ、今を楽しんで思い切り生きたいなと思いますね。

めぎさん、お忙しい中お返事ありがとうございました♡(^-^)v
by momo (2018-05-14 09:37) 

(。・_・。)2k

色々と考えちゃいますよね
病気の後 余計にそうなりました

by (。・_・。)2k (2018-05-14 11:13) 

Inatimy

HSVのチーム自体がなくなってしまったわけではないから、
今後の活躍にも目を向けたいですよね。
自分自身を見てみると、ずっと緑の葉っぱだけかもしれないけど、
それも、ま、いいかな^^;。
by Inatimy (2018-05-14 16:18) 

stellaria

55年間1部リーグで活躍というのはすごいですね〜。Jリーグはまだ歴史が浅いし、降格してもああそうか、という感じでここまで大きな失望はないように思います。ショックでしょうねえ。
私は、自分が読んできた絵本や児童文学の作者や翻訳者が亡くなるたびにとても残念です。戦後の子ども文化を支えてきた巨人のお一人であるかこさとしさんも、先日亡くなりましたし...。
by stellaria (2018-05-14 22:06) 

engrid

考えて、思いを馳せますね
でも、自分を見失う事なく生きたいな、、

by engrid (2018-05-15 17:49)