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今回一番楽しみにしていたオペラ [2019年夏 ザルツブルク]

現在、この夏のザルツブルクの話を連載中。

8月12日の夕方16時にめぎたちが見に行ったのは、メルケルさんが6日に見たオペラ、モーツァルトのイドメネオである。これは初演からもう数回目なので、予め批評もいっぱい読んでいたので、どれどれホントのところはどうかしら、と思いながら出かけた。

イドメネオというのはもともとはトロイア戦争後のクレタ島の話で、捕虜となったトロイア王女を愛してしまったクレタ王子とその王子を愛している別の王女との三角関係と、船旅で嵐に遭って海王ネプチューンに「クレタに帰って最初に会った人を生贄にする」という誓いを立てて助けてもらったところ最初に会ったのは息子の王子だったというクレタ王イドメネオの苦悩とを描いたもの。最後はネプチューンがクレタ王子と捕虜のトロイア王女の愛を讃えて二人が結婚して王位につくようにと決める・・・それはかなりあっけなく決められちゃうので、演劇としてはもともとあまり成熟した感じではない。今回演出はアメリカ人のPeter Sellarsが担当し、この一年ドイツの新聞を賑わせたテーマFridays for Futureという高校生たちのデモ運動と結びつけ、海のプラスチックごみなどを舞台に再現し、さらに難民問題を扱った。しかしそれが一昨年の「皇帝ティートの慈悲」のようにはうまく成功せず、メディアではかなり批判されていたのだった。

その一方で音楽の演奏の方、つまり指揮者Teodor Currentzisはどのメディアでも絶賛されていた。オケは古楽器を使うフライブルク・バロックオーケストラ。古楽器が嫌いな人もいるが、めぎはその当時の楽器で弾くという試みに賛成派だし、なんといってもこのTeodor Currentzisのショスタコーヴィッチの指揮に完全ノックアウトされたばかりだし、2年前の「皇帝ティートの慈悲」も彼の指揮でとても良かったので、ものすごく楽しみにしていたのである。実はチケット手配の際このオペラに関してはうちのドイツ人は全く興味を示さなかったのだが、「皇帝ティートの慈悲」のPeter SellarsとTeodor Currentzisが二人でまた手がけるオペラなのだから絶対に面白いだろう、どうしてもうちのドイツ人と一緒に見て感動を分かち合いたい、特にうちのドイツ人にTeodor Currentzisを知ってほしいというめぎの希望でこのオペラに来てもらったのである(ついでにいうと、めぎがオペラのチケット代を払ってうちのドイツ人を招待した。一枚195ユーロ、上から4番目、下からも4番目のカテゴリーで、今回のめぎの買ったザルツブルク音楽祭チケットで最も高かった演目。ちなみに一番上のカテゴリーなら一枚440ユーロ、一番下の立ち見席なら20ユーロ)。うちのドイツ人はその昔ハンブルクでPeter Sellarsと仕事をしたことがあって、その演出は好みではなかったというのだが、まあそれも40年くらい前の話だし、少なくとも音楽の方は素晴らしいはずだから、と。この写真はSüddeutsche Zeitungから。
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これは幕間の休憩中。
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これまでと違ってうちのドイツ人とあーだこーだと演出や音楽や歌手について話せるのが嬉しい。
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会場はフェルゼンライトシューレだったのだが、この会場をうまく使っているとはお世辞にも言えない演出だった。「皇帝ティートの慈悲」も好き嫌いに分かれる演出だったが、今回は好き嫌い以前に、どうも意味がわからないと言うか、意味があったはずなのに途中で方向性を失ったという感じ。パジャマにしか見えない衣装もやっぱりどうかと思うし。ガラスは綺麗だったけど。
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それに、最後にバレエがあるのだが、そこにPeter Sellarsはわざわざポリネシアンダンサーを連れてきたのだけど(つまりその島々が海のゴミで汚染されているわけだから)、その意味付けが見ただけでは全くわからない演出だった。さらにそのダンスはめぎの知っているポリネシアンと違って女性が一人ただ真ん中に立って手を動かしているだけで申し訳ないがつまらなく、所作に意味があるのかも知れないが全く理解できず、動くのは後ろにいる男性なのだけどその動きはただせわしなくさらに音がうるさくてモーツァルトの音楽に騒音が入るという感じしかしなくて、15分間舞台的には何の意味も感じられなかったのが残念だった。そもそも最後にバレエがあるというのも、それが当時のフランス風のオペラの常識だったというのはわかるけど、歌が終わった後が長すぎて、どうもしまりがないという感じがしてしまった・・・まあオリジナルはこうなんだとわかるメリットはあったけど。モーツァルトは天才だけど、すべての曲が素晴らしいわけじゃないんだということもわかったかな。
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めぎの見たイドメネオのオペラは最初から最後までドイツのテレビ局のオンデマンドのこちらこちらで見ることができる。日本でも開けるかどうかはわからないけど。そうそう、歌としては、捕虜のトロイア王女を演じた中国人ソプラノ歌手Ying Fangが非常にうまかった。ニューヨークのメトロポリタン・オペラのプリンシパル歌手だとのこと。歌を聞いただけで、そりゃもうひとりの恋敵の王女は負けるでしょ、と思っちゃったわ・・・肝心のイドメネオと王子がめぎ的にイマイチで残念。

この日、やっぱり絶賛できるのは指揮者のCurrentzisただ一人だった。オケはまたもやホルンあたりがもう少し頑張って~という感じだったけど、Currentzisの采配に十分見事に応えていたと思う。モーツァルトってこういうふうに演奏できるんだ、と目からウロコの演奏。殆ど知られていないイドメネオとかじゃなくて、有名な作品の彼の演奏を聞きたいところ。最後のバレエの部分は、ハッキリ言ってCurrentzisの指揮の様子が何より面白かった。あれこそダンスという気がする・・・オケも立ちっぱなしでの演奏でご苦労さま。
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そんなわけで、大枚叩いてうちのドイツ人を招待したのにイマイチなオペラでとっても残念だった。でも、Currentzisの指揮を経験してもらえたのは本当に良かったし、うちのドイツ人は感動するほどではなかったようだけど、その音楽の解釈は素晴らしいと気に入ってくれてよかったわ。めぎと同じで中国人歌手の歌声も良いと思ったみたいだったし。更にめぎと同じで、最後の踊りに関しては酷評の極みを尽くしていたけれど。

この日の夜は、残り物と焼きそば風スパゲティ。お惣菜で買ってあったアーティチョークのマリネのオイルが美味しかったので、それを使ってスパゲティを炒めて卵でとじたもの。うちのドイツ人が来てからは美味しいものが食べられていいわ~
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これで8月12日のお話はおしまい。


♪ 追記 ♪

このリンクだったら開けるかしら。最初に貼り付けた全曲のリンクは削除されたようなので、歌が少し長く聞けるこちらのリンクをどうぞ。



これは演出家のインタビュー。

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