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青年のアパート [文化の違い]

11月初めの週末、親戚のうちに集っためぎ家。
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親戚と言うのはうちのドイツ人の叔母とその娘(つまりうちのドイツ人の従妹)とその息子で、集った場所はその一番若い従妹の息子の賃貸アパートの部屋。彼は今28歳で、働きながら大学に通うデュアル中。だから勉強スペースもある。従妹の息子、と書くと長いので、彼のことを「青年」と書くことにする。
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青年はかつて高校卒業後1~2年大学に行ったのだが、どうもアカデミックな勉強はあわないと感じて退学し、自動車セールスの職業研修を始めた。ドイツでは、マイスター・徒弟制度の残る技術・左官・工芸系やパン屋や料理人などはもちろん営業とか銀行マンとかの仕事に就く場合も大学卒業の必要はなく、2年間ぐらいのその仕事の専門職業研修を終えることが必須(言い換えると、大学を卒業していてもその職業に就くにはその研修をしなければならないので、大学はただの回り道で大卒の肩書も意味がない)。その専門職業研修と言うのは、企業で見習いをしながら週に2~3回ぐらい専門学校に通ってその分野の勉強をするというもの。若干だが(年次ごとに異なるが平均600~1000ユーロの)給料ももらいながら研修をする。ドイツには大学をそんな風に途中でやめて職業研修に切り替える人がよくいるが、それが可能なのは、日本と違って大学入試がなく高校の卒業資格があればいつでも大学に入れることと、大学の授業料が無料であることによるかな。入学料などもないし。だから親も子供の取る道に寛容になれるのだろう。

青年は数年前にその専門職業研修を終え、一人前になって晴れて自動車セールス業に就いたのだが、今度はさらにブラッシュアップしたくなって(何をどうブラッシュアップしたいのかよく聞いていないが仕事の内容を変えたいらしい)、去年の秋から働きながら大学資格も得るというデュアルシステムの勉強を始めたのだ。就職して初めて、大卒との仕事や収入の差を思い知ったのかもしれない。やっとやりたい勉強が見つかったとも言えるかな。専門はMobilität (mobility)で、つまり車や交通機関の動きや流れについて。かなりスペシャルな分野で、デュッセルドルフ大学には無く、登録はシュトゥットガルト近くのガイスリンゲンという町にある経済環境学の専門大学のようだ。オンラインで講義を聞く週があったり、現地で大学に通う期間があったり(授業は木~土に行われるので、月~水は仕事ができる)、試験を受けに行ったりを繰り返し、学士の卒業までにかかる期間は普通の大学と同じ。もちろんデュアルで大学に行くというのは会社に届け出済みで、仕事と大学が五分五分になる。ドイツの企業では基本的に残業や休日出勤をしないので(それが必要な仕事の場合は、後でその分休日がもらえる)、だからこそ可能な制度であるとも言えるかな。

さて、そんな青年は以前、職業訓練をしてそのまま就職した会社のすぐそばに同じ会社の人とルームシェアして住んでいたのだが、2年ほど前にちょうど知り合いが退去するアパートを引き継いで入居し、一人暮らしするようになった。デュアルを始めるより前のことだ。で、そこにそのうち集まろうねと話してたのが、先日やっと実現したというわけである。
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とても小さいけど独立したベッドルームもある。
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リビングダイビングの一角には大きなテレビもあり、この日は音楽をかけていたが、その向かいに大きなソファーもあって、友だちと集うときにはそこでワイワイ飲んだりサッカーを見たりしているようだ。
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窓の外には小さな中庭もあり、この日はもう冬枯れしてるし夜だったのでイメージが湧かないが、この中庭が綺麗なのがここに決めた一つのポイントだったとのこと。
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18時ごろ到着し、まずはビールで乾杯し、しばらく雑談。
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叔母と従妹の到着を待つ。そうそう、白い羽ちゃんと玉ねぎケーキの集いをした後体調を崩した従妹は、2週間の療養後無事に仕事に復帰した。
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65㎡ぐらいの広々としていい部屋だったが、飾ろうとしている絵が数枚あって、どれをどこにと決めかねててまだ飾ってないまま。これは叔母(青年にとっては祖母)の絵で、気に入ってもらったそうなのだが、叔母としては実は未完成で、最後まで手を入れるかどうかもまだ決めかねているようで、飾るに飾れないままなのだとか。
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デュアルで会社勤めと大学での勉強をしている場合に給料はどうなっているのか聞き忘れちゃったけど、インターネットによるとデュアル学生の収入は平均で(年次によるが)1800~3000ユーロぐらいらしい。彼は一応一人前だし、結構たくさんもらっているのかも。だってこの部屋、28歳の独り身のまだ学生もやっている青年の一人暮らしとして考えると、随分いい暮らしだわよねぇ。日本の住まいが狭すぎるためかもしれないが、学生の住まいには見えないわね。まあ学生と言っても独り立ちしているわけだから、普通の日本の学生とは違うわね。
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デュアルシステムって、凄く良い面もあるけど、月~水は仕事で木~土は学業でとものすごく忙しくて、めぎやうちのドイツ人が学生だった頃のように、将来どうなるか分からないけど今はただ好きなことに没頭する、友人たちとただただ(意味ないかもしれないけど)文学のテーマについてとかを議論し合う、長期休みに貧乏旅行して世界を見る、というような「遊び」をする暇がなく、学んでいるのも仕事上のブラッシュアップのための学問でやっぱり遊びや思索の部分が無いし、ちゃんと職業にもついているから生活が安定してて、ある意味味気ないなあってちょっと感じる。でもそれも、めぎとうちのドイツ人は総合大学のバリバリ文系、文学・哲学・歴史系だったからで、仕事直結の専門大学や経営学や法学、さらに理系・医学系の人たちとは過ごし方が全く違うのかもしれないわね。

つづく。
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コメント 7

Baldhead1010

手に職を付ける・・・大切なことです。

それをしない日本では詐欺や闇バイトの強盗でお金を得るしかないんです。
ああ、情けなや。
by Baldhead1010 (2024-11-11 06:52) 

mm

大学より専門学校出のほうがいろいろ便利な気がします。
特定の技能(と言っていいか、医者とか弁護士とか)を持つなら日本の場合大学でしょうけれど。
by mm (2024-11-11 07:39) 

YAP

こういう学校教育から仕事選択の過程が、ドイツってすごいなと思います。
そう、大学の勉強なんて(とまでは言い過ぎかもしれませんが)その程度で、結局は仕事に就いてから実務で必要なことを学びながら成長していくんですよね。
交通環境の勉強って、まさに今進化し続けているインフラなので、これは社会のため、生活する人のためにも期待したいところですね。
by YAP (2024-11-11 11:07) 

Jetstream

仕事しながら学ぶ、学びながら仕事をし、職を身に着けるマイスタースピリットがドイツには受け継がれていますね。大学に入ること自体が目的化しかねない日本とは異なって先を見越して実質的に向き合うのがドイツ気質と拝察しました。
by Jetstream (2024-11-11 14:13) 

JUNKO

日本とは全く違いますね。羨ましい一面もあります。大学に入ることが絶対条件で無いのがいいです。楽しく読みました。
by JUNKO (2024-11-11 16:51) 

Inatimy

自由に行動できて学べるという環境なのが羨ましいな。
女は大学に行かなくてもいいっていう家で私は育ったし^^;。
オランダの大学は無料じゃなくて学費もかかるし、最近は大学に余分に1年以上長く在籍すると罰金なんてニュースもあったようで学生が抗議してるとかも。
by Inatimy (2024-11-11 18:21) 

おと

仕事しながら学びなおせるって良いですね~。
大学の授業料が無料って、すごいですね。イギリスの大学の学費は、大学にもよるけれど、かなり高額と聞きます。
by おと (2024-11-12 00:08)