ラジオ公開生放送 その3 [2024年ザルツブルク]
今日は今年2024年夏のザルツブルク音楽祭のお話を。音楽祭2日目のラジオ公開生放送を見に来ているところ。ここまでの話はこちらとこちら。
90分の放送のうち58分を過ぎたところで、今年の音楽祭のオペラの話に入る。今年は10のオペラが公演され、そのうち5つがコンサート形式。ゲストのバリトン歌手ゲオルク・ニグルがウィーン少年合唱団にいた頃初めて出演したオペラは8歳の時でカルロス・クライバーが指揮をしたカルメンだったとか。その頃はまだ自分はカカーニエン(皮肉めいた言い方で「君主国」という意味)のプリンスで、16歳の時にはオッフェンバッハのオペラに観衆役で出て…というような話をしていたとき、すぐ近くの教会でこの日の夜のコンサートのゲネプロを終えたパトリチア・コパチンスカヤというバイオリニストが会場に入ってきた。間に合えば駆けつけるという話だったびっくりゲストの彼女がやってきたので、その話は中断。
で、パトリチア・コパチンスカヤが拍手で迎えられる中、ヒンターホイザーと抱擁。いいなぁ…私も音楽家になってヒンターホイザーに認められたらどんなに素敵かしら…と夢物語の妄想に浸る。なのでその瞬間は撮っていない。手前の後ろ姿の女性がそのバイオリニスト。その日のコンサートについてはこちら。リンク先の下の方に出てくる写真の赤いドレスの女性。ちょっとしゃべりすぎるきらいがあるけど、とってもエネルギッシュでとっても可愛い。彼女については日本語ではこちら。
彼女が出るこの日の夜のコンサートは、ザルツブルク音楽祭の開催最初の1週間ぐらいに毎晩上演されるOuverture spirituelle(精神的序幕)というシリーズの今年のテーマEt exspecto(そして希望・期待)の一環で、そこからしばらくヒンターホイザーがそのコンサートシリーズについて話す。そのコンサートシリーズの多くはコレーギエン教会で行われるのだが、その場所が音楽の受容や知覚に非常に重要だという。神の領域での敷居がその音楽の受け取り方を変えるのだとか。それを引き継ぎ、パトリチア・コパチンスカヤも、この教会の場所が演奏や言葉や知覚を自由にするという。コレーギエン教会はなにかマジックな場所で、助けてくれるのだとか。うーん、たしかに教会でのコンサートは独特な雰囲気で素敵なのだけど、このお話はちょっとしつこくて、カトリックの教会を借りてコンサートをしている音楽祭の立ち位置と言うか、場所を貸してくれている人への配慮を感じたな…
ゲネプロを終えたばかりで駆けつけて、今晩コンサートだというパトリチア・コパチンスカヤはかなりハイテンション。早口で喋りまくる。ゲネプロは公開で、完璧だったという。お客さんの魂が存在するので普通のゲネプロにはならなくて、で、完璧なゲネプロの後の本番は危ないというからちょっと考え方を変えなきゃ、と話していた。曲はカール・アマデウス・ハルトマンというドイツの作曲家の1939年作曲の「ヴァイオリンと弦楽合奏のための葬送協奏曲」で、滅多に演奏されない非常に暗い、否、明暗の両方がある曲なのだという。彼女は反体制・反戦争のハルトマンについてダッハウ強制収容所の目撃や作品へのユダヤのメロディーの挿入など様々なエピソードを紹介しながら紹介し、「葬送協奏曲」の最初には当時の体制への批判からフス派(フスとは15世紀にカトリック批判をして火刑されたボヘミア人、ボヘミアとは今のチェコ、フス派とはチェコで信仰の自由を求めてずっと運動をつづけた人たち)のコラールが使われているのだが、世界は未だ歴史から学んでいない、と締めくくった。彼女自身の演奏の録音があるので、とそこでちらっと3楽章が紹介された。YouTubeで見つけたので貼り付けておく。凄いなぁ…こんなのをバイオリンで弾くんだ、この可愛い女の子が(彼女の話し方や雰囲気を見たい方はこちらをどうぞ)。と言っても彼女も1977年生まれなのでもう若くはないのだけど、雰囲気はまだ少女のよう。モルダヴィアから両親とともにオーストリアに亡命した彼女はウィーン育ち。17歳からウィーン音楽大学に進み、21歳からはスイスのベルン芸術大学。世界にはこういう道もあったんだなぁ…自分も音楽続けてたら…とちょっと妄想に浸るが、まあ日本で音楽の道に進んだところでザルツブルク音楽祭に招待されて弾けるようにはならなかったはずだし、めぎはめぎの道でめぎなりに努力して今こうしてここでこの話を聞いて楽しめるようになったんだから、素直に良しとしましょ。
この日の夜のコンサートはめぎは行っていない(この放送の後めぎはミュンヘンに移動し、うちのドイツ人と合流、バイエルン・オペラ座に行った)。でも、そのコンサートのラジオ放送は録音してある。エネルギッシュな演奏。希望を持ち続けたいという強い意志を感じる。彼女は8月後半にザルツブルク音楽祭でもう一つコンサートをする予定で、そこではGyörgy Kurtág(クルターグ・ジェルジュ)の作品をソプラノ歌手とともに演奏するという(それについてはこちら)。Kurtágと言えば、ゲオルク・ニグルも秋にウィーンの国立オペラ座で彼のオペラをやるそうで(それはこちら)、ちょうど譜読みを終えたところだという。演出は誰?とパトリチア・コパチンスカヤに聞かれ、うー…と言葉に詰まるゲオルク・ニグル。このオペラFin de Partieはもともとはザルツブルク音楽祭で初演が計画されたが、戯曲の執筆に長い時間を要し、変更されてミラノ・スカラ座となったというもの。2018年11月が初演だから、もし間に合ってザルツブルク音楽祭になってたら見たはずだったのに、残念。ザルツブルク初演だったら、ゲオルク・ニグルが歌うことになっていたそうだ。パトリチア・コパチンスカヤの方は、Kafka-Fragmente op. 24 für Sopran und Violineという曲で、何度弾いても掴めないという。弾きながら、zööööööööööööögern!(ためら~~~~~~~~う!)なのだそう。だから観客の方も事前に何も食べず良く寝てコンサートに集中した方がいいという(笑い)。その一部がパトリチア・コパチンスカヤの演奏で東京で演奏されたビデオがあったので貼り付けておく。4分14秒からのほんの30秒と、9分20秒から最後まで。この曲、ソプラノ歌手との共演なのだが、このビデオでは本人が弾きながら歌っている。
パトリチア・コパチンスカヤは今回のザルツブルクで演出なしで歌うのをとても楽しみにしているという。それを受けてゲオルク・ニグルが言うには、彼も、オペラのように振りやら衣装替えやら頭のどこかでそのことを考えながら歌っているのと、ただ舞台に立ってただ音楽を演奏するのとでは全く違う、息をすることができるのは、本当に素晴らしい時間だ、とのこと。コンサート形式で歌うと、理解が深まるのだとか。
そろそろ終わりが近くなり、最後にかつてヒンターホイザーが感銘を受けたというマーラーの交響曲第2番の4楽章Urlicht(原光、始原の光)がかかった。Janet Bakerという歌手とバーンスタインの演奏だという。美しい歌声と演奏だったので、最後まで聞いてみたくて探してみた。その部分を聞きたい方は、48分35秒から5分ほど。
この歌声の後、司会の女性が、こうして素晴らしいゲストと毎週素晴らしい音楽を聴くことができて、私は世界一素晴らしい職業についているわ、と言い、いや、自分の方がもっといい、とゲオルク・ニグル。こうして90分はあっという間に過ぎ、司会の女性が歌手の二人にコンサートやオペラの成功を祈り、ヒンターホイザーにあと43日間の音楽祭の成功を祈り(この日は全44日間の2日目だったのだ)、来週のゲストは誰々で…と宣伝し、公開ライブ放送は終わった。音楽家たちを間近で見ることができ、肉声を聞くことができてとても楽しかった。それにしても、こうしてここにタダで入れてくれて、写真を撮らせてくれる音楽祭って太っ腹だよなぁ…スマホでビデオ撮っている人もいたし、なんというか、おおらかだなぁ。めぎはそんなザルツブルクが好き。
90分の放送のうち58分を過ぎたところで、今年の音楽祭のオペラの話に入る。今年は10のオペラが公演され、そのうち5つがコンサート形式。ゲストのバリトン歌手ゲオルク・ニグルがウィーン少年合唱団にいた頃初めて出演したオペラは8歳の時でカルロス・クライバーが指揮をしたカルメンだったとか。その頃はまだ自分はカカーニエン(皮肉めいた言い方で「君主国」という意味)のプリンスで、16歳の時にはオッフェンバッハのオペラに観衆役で出て…というような話をしていたとき、すぐ近くの教会でこの日の夜のコンサートのゲネプロを終えたパトリチア・コパチンスカヤというバイオリニストが会場に入ってきた。間に合えば駆けつけるという話だったびっくりゲストの彼女がやってきたので、その話は中断。
で、パトリチア・コパチンスカヤが拍手で迎えられる中、ヒンターホイザーと抱擁。いいなぁ…私も音楽家になってヒンターホイザーに認められたらどんなに素敵かしら…と夢物語の妄想に浸る。なのでその瞬間は撮っていない。手前の後ろ姿の女性がそのバイオリニスト。その日のコンサートについてはこちら。リンク先の下の方に出てくる写真の赤いドレスの女性。ちょっとしゃべりすぎるきらいがあるけど、とってもエネルギッシュでとっても可愛い。彼女については日本語ではこちら。
彼女が出るこの日の夜のコンサートは、ザルツブルク音楽祭の開催最初の1週間ぐらいに毎晩上演されるOuverture spirituelle(精神的序幕)というシリーズの今年のテーマEt exspecto(そして希望・期待)の一環で、そこからしばらくヒンターホイザーがそのコンサートシリーズについて話す。そのコンサートシリーズの多くはコレーギエン教会で行われるのだが、その場所が音楽の受容や知覚に非常に重要だという。神の領域での敷居がその音楽の受け取り方を変えるのだとか。それを引き継ぎ、パトリチア・コパチンスカヤも、この教会の場所が演奏や言葉や知覚を自由にするという。コレーギエン教会はなにかマジックな場所で、助けてくれるのだとか。うーん、たしかに教会でのコンサートは独特な雰囲気で素敵なのだけど、このお話はちょっとしつこくて、カトリックの教会を借りてコンサートをしている音楽祭の立ち位置と言うか、場所を貸してくれている人への配慮を感じたな…
ゲネプロを終えたばかりで駆けつけて、今晩コンサートだというパトリチア・コパチンスカヤはかなりハイテンション。早口で喋りまくる。ゲネプロは公開で、完璧だったという。お客さんの魂が存在するので普通のゲネプロにはならなくて、で、完璧なゲネプロの後の本番は危ないというからちょっと考え方を変えなきゃ、と話していた。曲はカール・アマデウス・ハルトマンというドイツの作曲家の1939年作曲の「ヴァイオリンと弦楽合奏のための葬送協奏曲」で、滅多に演奏されない非常に暗い、否、明暗の両方がある曲なのだという。彼女は反体制・反戦争のハルトマンについてダッハウ強制収容所の目撃や作品へのユダヤのメロディーの挿入など様々なエピソードを紹介しながら紹介し、「葬送協奏曲」の最初には当時の体制への批判からフス派(フスとは15世紀にカトリック批判をして火刑されたボヘミア人、ボヘミアとは今のチェコ、フス派とはチェコで信仰の自由を求めてずっと運動をつづけた人たち)のコラールが使われているのだが、世界は未だ歴史から学んでいない、と締めくくった。彼女自身の演奏の録音があるので、とそこでちらっと3楽章が紹介された。YouTubeで見つけたので貼り付けておく。凄いなぁ…こんなのをバイオリンで弾くんだ、この可愛い女の子が(彼女の話し方や雰囲気を見たい方はこちらをどうぞ)。と言っても彼女も1977年生まれなのでもう若くはないのだけど、雰囲気はまだ少女のよう。モルダヴィアから両親とともにオーストリアに亡命した彼女はウィーン育ち。17歳からウィーン音楽大学に進み、21歳からはスイスのベルン芸術大学。世界にはこういう道もあったんだなぁ…自分も音楽続けてたら…とちょっと妄想に浸るが、まあ日本で音楽の道に進んだところでザルツブルク音楽祭に招待されて弾けるようにはならなかったはずだし、めぎはめぎの道でめぎなりに努力して今こうしてここでこの話を聞いて楽しめるようになったんだから、素直に良しとしましょ。
この日の夜のコンサートはめぎは行っていない(この放送の後めぎはミュンヘンに移動し、うちのドイツ人と合流、バイエルン・オペラ座に行った)。でも、そのコンサートのラジオ放送は録音してある。エネルギッシュな演奏。希望を持ち続けたいという強い意志を感じる。彼女は8月後半にザルツブルク音楽祭でもう一つコンサートをする予定で、そこではGyörgy Kurtág(クルターグ・ジェルジュ)の作品をソプラノ歌手とともに演奏するという(それについてはこちら)。Kurtágと言えば、ゲオルク・ニグルも秋にウィーンの国立オペラ座で彼のオペラをやるそうで(それはこちら)、ちょうど譜読みを終えたところだという。演出は誰?とパトリチア・コパチンスカヤに聞かれ、うー…と言葉に詰まるゲオルク・ニグル。このオペラFin de Partieはもともとはザルツブルク音楽祭で初演が計画されたが、戯曲の執筆に長い時間を要し、変更されてミラノ・スカラ座となったというもの。2018年11月が初演だから、もし間に合ってザルツブルク音楽祭になってたら見たはずだったのに、残念。ザルツブルク初演だったら、ゲオルク・ニグルが歌うことになっていたそうだ。パトリチア・コパチンスカヤの方は、Kafka-Fragmente op. 24 für Sopran und Violineという曲で、何度弾いても掴めないという。弾きながら、zööööööööööööögern!(ためら~~~~~~~~う!)なのだそう。だから観客の方も事前に何も食べず良く寝てコンサートに集中した方がいいという(笑い)。その一部がパトリチア・コパチンスカヤの演奏で東京で演奏されたビデオがあったので貼り付けておく。4分14秒からのほんの30秒と、9分20秒から最後まで。この曲、ソプラノ歌手との共演なのだが、このビデオでは本人が弾きながら歌っている。
パトリチア・コパチンスカヤは今回のザルツブルクで演出なしで歌うのをとても楽しみにしているという。それを受けてゲオルク・ニグルが言うには、彼も、オペラのように振りやら衣装替えやら頭のどこかでそのことを考えながら歌っているのと、ただ舞台に立ってただ音楽を演奏するのとでは全く違う、息をすることができるのは、本当に素晴らしい時間だ、とのこと。コンサート形式で歌うと、理解が深まるのだとか。
そろそろ終わりが近くなり、最後にかつてヒンターホイザーが感銘を受けたというマーラーの交響曲第2番の4楽章Urlicht(原光、始原の光)がかかった。Janet Bakerという歌手とバーンスタインの演奏だという。美しい歌声と演奏だったので、最後まで聞いてみたくて探してみた。その部分を聞きたい方は、48分35秒から5分ほど。
この歌声の後、司会の女性が、こうして素晴らしいゲストと毎週素晴らしい音楽を聴くことができて、私は世界一素晴らしい職業についているわ、と言い、いや、自分の方がもっといい、とゲオルク・ニグル。こうして90分はあっという間に過ぎ、司会の女性が歌手の二人にコンサートやオペラの成功を祈り、ヒンターホイザーにあと43日間の音楽祭の成功を祈り(この日は全44日間の2日目だったのだ)、来週のゲストは誰々で…と宣伝し、公開ライブ放送は終わった。音楽家たちを間近で見ることができ、肉声を聞くことができてとても楽しかった。それにしても、こうしてここにタダで入れてくれて、写真を撮らせてくれる音楽祭って太っ腹だよなぁ…スマホでビデオ撮っている人もいたし、なんというか、おおらかだなぁ。めぎはそんなザルツブルクが好き。
2024-10-26 02:00
nice!(25)
コメント(5)
バイオリンと言えば今朝の地元紙に、特産の魚梁瀬スギで造られたバイオリンが素晴らしい音色がするという記事が載っていました。
by Baldhead1010 (2024-10-26 05:04)
日本だと、すぐに「撮影はしないでください!」って言われそうです。
写真から見るに、めぎさんの席はほぼ最前列ですかね。
ほんとに近くで楽しめたことでしょう。
by YAP (2024-10-26 07:10)
多くの人が当たり前に音楽を楽しんでしますね。二本みたいに特殊なものでも気取ったものでもない。ザルツブルグの雰囲気が好きというめぎさんがよくわかります。私にとっても音楽は遠いものです。
by JUNKO (2024-10-26 16:46)
パトリチア・コパチンスカヤさん、とってもエネルギッシュで、音楽を全身で表現していて、可愛い人ですね~。「(彼女の話し方や雰囲気を見たい方は」のYouTube、楽しくて見入っちゃいました♪
by おと (2024-10-27 03:32)
盛りだくさんな内容ですね。どんどん話が膨らんできて、
聞き逃さないようにするのも大変そうな。
大学の授業の90分はすごく長く感じられたけれど、
このラジオ公開生放送はあっという間の時間の流れだったかな^^。
by Inatimy (2024-10-27 17:09)