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久々のコンサート [小さな出来事]

今日は先日の日曜日のお話を。

ヨーロッパが夏時間に変わった日曜日、めぎたちは2年ぶりにここにやってきた。
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ケルンのフィルハーモニーホールである。
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前回ここに来たのは2020年2月20日だった。ケルン・フィルハーモニーホールでのクルレンツィスというギリシャ人の指揮者とSWR(南西ドイツ放送)交響楽団のコンサートを聞きに来たのだった。それから2年と1か月経って、再びクルレンツィスとSWR交響楽団のコンサートが行われることとなり、ずいぶん前からチケットを買ってあった。今回の席もいつもと同じ、ホールの一番上の通路に設けられた席である。
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コロナはまだ絶好調に存在しているけれど、ブースターをしていれば、そしてマスクさえすればドイツではたいていのことが可能になり、コンサートも2年ぶりとは言え普通に行われる予定だった。いや、2年ぶりにやっと普通にコンサートができるという喜びに満ちたものになるはずでもあった。それが、2月下旬からの戦争勃発で、突然雲行きが怪しくなった。その後数日の間に、ロシア人の音楽家はプーチンとの関係がどの程度か調べ上げられ、戦争反対&反プーチンの声明をあげなければヨーロッパからことごとく追放されていったのだ。ミュンヘンの指揮者だったゲルギエフや、超有名なオペラ歌手のネトレプコがその代表である。その二人は、如何に素晴らしい音楽家であっても(リハーサルをドタキャンすると言った話も多かったので本当に素晴らしいかはまた異論もあるがそれはさておき)、プーチンと非常に親しい関係であったことから、ネトレプコに至ってはロシアの東ウクライナの傀儡政治を支持する行動をとっていたことから、そしてそれを戦争が始まってからも決して反省することも無ければ支持を否定もしなかったことから、もはや致し方ない、というのがヨーロッパの今の状況である。

戦争勃発当初からめぎの気になったのが、クルレンツィスである。彼はギリシャ人だけど、20年来ロシアに住んでロシアのオーケストラを率いているのだ。そのオーケストラはロシアの最王手の銀行がスポンサーになっているというし、その銀行はもちろんプーチンと仲が良いというし、さて彼はどうなるんだろう。彼のオーケストラはどうなるのだろう。めぎだけではなく、世界中の彼のファンがやきもきしていただろうし、好きでなくてもクラシック好きなら注目していたはずだ。この春から夏にかけて、彼は山のようにヨーロッパ中でコンサートが予定されているし、ザルツブルク音楽祭だって今年も彼がメイン指揮者の一人なわけだし。

しかしクルレンツィスは長いこと何も声を発しなかった。それでクラシック音楽界の批評家たちは、いったい彼はどうなってるんだ?関係ないとでもいうのか?と常に話題にしていた。彼を招いていた関係者はその間、相当に頭を抱えていたことだろうと思う。きっとずいぶんたくさんの話し合いがあったのだろうな。3月11日になってようやく、クルレンツィスを2018年から音楽監督にしていて3月27日からヨーロッパツアーをすることになっていたSWR交響楽団が声明を発表した。中止になるのかな、と思いきや、コンサートツアーを予定通り行い、プログラムを変更するという発表だった。もともとはブラームスを演奏するはずだったのが、戦争勃発により、クルレンツィスと旧来の友人でキエフに住んでいるというウクライナ作曲家の作品と、ドイツの作曲家の作品と(と言ってもブラームスではなく現代作曲家の作品)、そして反スターリンのショスタコーヴィチの5番にすると。

そして、こちらの記事によれば、SWR交響楽団はクルレンツィスと同じ価値観を持っていることを確認し、双方ともに平和と和解を求めているのだという。クルレンツィスはこれまでプーチン体制を支持する発言をしたこともそういう行動をとったこともなく(そこがゲルギエフやネトレプコと全く違う点である)、その一方で音楽に橋渡しの力があると常に強調してきている、というのがGOサインを出した理由で、だからウクライナ~ドイツ~ロシアの作曲家を選び、その順番で演奏することとしたのだろう。唯一の問題は彼のロシアのオーケストラがロシアの銀行をスポンサーとしていることだが、それはずっと前からのことだから、そのオーケストラがロシアのウクライナ攻撃を支持しているとみなすことはできない、というのがSWR交響楽団の出した結論らしい。

そして、SWR交響楽団としては、戦争の犠牲者への連帯を表明するとともに、「ロシアに住み、活動しているアーティストを一律に非難し自動的に協力を打ち切るのでは、誰の助けにもならないし、戦争を終わらせることもできない」とし、クルレンツィスの「音楽の力で国境を越え、平和な共存に貢献する」という芸術的目標をともに追い求めていくことにしたのだという。

前置きが長くなったが、そのようなわけで、めぎたちはケルンへそのコンサートを予定通り聞きに行き、最初に戦争の犠牲者への1分間の黙祷をし、ウクライナ~ドイツ~ロシアの橋渡しとなるプログラムを聞いた。これは19時頃の休憩時間に撮ったもの。
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ショスタコーヴィチの5番は素晴らしかった。かつてライブで見たラトルとベルリンフィルの4番ほどのインパクトはなかったが、今回の演奏も本当に素晴らしかった。ものすごく真剣で、こうして音楽で是非を問う、という明確な意思が感じられ、ショスタコーヴィチの当時の気持ちにも思いを馳せた。
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いつも、ザルツブルク音楽祭でも、ジーンズかレギンスかと思うようなぴっちりパンツに長いチュニックのような黒いシャツを羽織っているクルレンツィスだが、この日はなんと正装だった。彼にとっては今回それだけ真剣勝負だったのだろう。今後予定通り活動ができるか否かを聴衆に問うコンサートだったのだから。
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帰りは20時を過ぎていたが、まだブルーアワーだった。
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夏時間になったんだなあと実感した。前日まではこの時間帯は19時台だったのだ。1時間時計の針を進めて夏時間になったので、この日は20時台。
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以上、スマホでの適当な撮影なので写真としては何の意味もないが、この日の記録として。
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あとは、彼のロシアのオーケストラ、ムジカエテルナが予定通りヨーロッパに来られるといいなと願っている。クルレンツィスは、いざとなればムジカエテルナと別れてヨーロッパでもアメリカでも生きていける。かつて、ヌレエフだって、ロストロポーヴィチだって、みんな西側へ逃れて生きていったのだ。しかしロシア人たちの集団、ムジカエテルナはどうなるのだ?彼らだって、音楽が好きで、音楽で田舎から羽ばたいて、世界中の人たちと繋がって生きて来たのに、どうなってしまうのだ…?

そして今、めぎはやっとクルレンツィスの気持ちに思いが至る。もちろんめぎの想像に過ぎないが、戦争勃発から今日まで、彼はどんなにいろんなことを考えたことだろう。彼の大事なムジカエテルナをどうしたらいいのか。彼自身、この2年間コロナでたくさんの予定が中止せざるを得ず、いろんな計画や野望が中断されたはずだ。やっとコロナが(終わってないけど)終わりそうなところに来て、今度はもっと悲惨な戦争が行く手を阻もうとしている。こんなことになるなんて。どうしてくれるの。
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(。・_・。)2k

コロナから2年
3年後4年後5年後はどうなってるんでしょうね
落ち着いている事を願うばかりです

by (。・_・。)2k (2022-03-30 02:53) 

YAP

どうしてもロシアは例外なく排除しないといけないんでしょうね。
そういうことが戦争なんだろうな。
by YAP (2022-03-30 07:47) 

Inatimy

芸術もスポーツも、戦争でいろんな影響を受けてますね。
自分の立ち位置で今の暮らしや未来が変わる、考えて迷って考えて・・・繰り返し自問する人も多いんだろうな。
戦争もコロナも早く終わってほしいです。
by Inatimy (2022-03-30 18:38) 

おと

音楽家も影響力が大きいですし、発言や立場を問われることになっていますね、、。真摯に音楽を愛する気持ちは、どの国の方でも変わらないと思うのですけれども。いろいろな究極の選択が、起こっているように思います。悲しいことです。
by おと (2022-03-30 20:06) 

テリー

コロナの後が、戦争しかも長い泥沼の戦い、そして、物価高騰になってゆくと困りますね。短期で、終わるのを、神様に祈るしかないです。ロシアに、世界的に著名な音楽家が多いのですね。
by テリー (2022-03-30 22:57)