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ドイツ人のバカンス&ザルツブルクの朝のお話 [ザルツブルク]

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今日はめぎの今まで見聞きしたところのドイツ人のバカンスのあり方についてご紹介。それと同時に、赤い字で一夜明けた朝の話をどうぞ。

先日も書いたように、ドイツでは夏に2~3週間の休暇を取ってバカンスに出かけるのが一般的。有給休暇は年間30日だが、そのほぼ100%を消化する国であるから、夏に2~3週間休むだけでなく、春か秋にも1週間、冬にも2週間と休む訳だ。人によっては夏は1週間で、2月とか11月とかに3週間休んでアジアや南米に出かける人もいる(別の大陸に行く場合は絶対に3週間以上の長期休暇を取る・・・1~2週間ではそんな遠くに行く意味がないと誰もが口を揃えて言う)。そういうことも極めて普通に可能なのがドイツなのだ。休みが取れるか取れないかはお国柄の違いだからさておき、そんなに休んでバカンスに出かける金銭的余裕はどこから?とお思いかも知れない。ドイツ人の所得は決して日本と比べて多い訳ではないのに。それどころか、めぎの見たところ、日本人の方が残業代やらボーナスやらでずっとたくさん所得があるように思う。ドイツには残業はないし(仕事上残業した場合はその分あとで早く帰ったりして帳尻を合わす)、ボーナスも一般社員には全く無いのだ。
滞在初めての朝はまずザルツァハ川へ出かけた。
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それなのにみんなバカンスへ出かける。それも週単位で。それはなぜできるのか・・・個人差はもちろんあるが、一般的平均的な話をしよう。まず、家賃や食品、日用品が安いことが大きい。ドイツ人の衣食住にかける費用は日本と比べるとざっと半額以下ではないかと思う。めぎの家賃は20年前に東京で払っていた家賃とほぼ同じだが、広さは3倍くらいある。服や鞄や靴などはブランドに全く拘らず、顧客と打ち合わせの予定がある人以外はみんなジーンズで出社。肉も果物も野菜も安いし、普段は全く外食せず、飲み会などもなく、夜はもちろんお昼も自宅に帰って食べる人が多く、食費もかからない。土日もレジャーに出かける訳でなく、うちで自分でケーキを焼いてお茶をし、庭仕事をしたり散歩したり。普段の生活にお金がかかっていないのだ。
こんな長閑な風景を見ながら・・・
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次に、子どもの教育費にお金がかからないから。ドイツの学校や大学は無料。入試もないので塾代もかからないし、入学金や授業料を貯蓄する必要もない。それから、年金やら健康保険やらが充実しているため自分でさらにプライベートで貯蓄したり保険をかけたりする必要がないこと、つまり病気になっても無料で治療・手術してもらえるので、そういう万一に備える必要がないことが大きい。
この日、朝食をここで食べた。宿は自炊なので朝食がなく、前日は到着してすぐコンサートに行って終わったので、何も食べるものがなかったのだ。これはマティエス(塩漬けニシン)のサンド。こんな内陸に来てマティエス?と自分でもつっこみを入れたいが、美味しそうに見えたし、デュッセルドルフやハンブルクやオランダとどの程度品質が違うのかも試してみたくて。結果的に言えばやっぱりイマイチだったけど。
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そして、バカンス先でも慎ましく生活するから。これが最も大きな理由だと思う。金銭的に言えば、日本人が一泊旅行にかけるお金はドイツ人にとって1週間分、1週間の海外旅行にかけるお金は3週間分という感じ。つまり、金銭的には、1週間の海外旅行を計画する日本人なら、ドイツ人的な3週間の休暇を楽しめる余裕が十分にある。しかし、その分日本人が一泊旅行や1週間の海外旅行に期待しているようなサービスは受けられない。旅の予算は日本もドイツも同じで、期間と過ごし方が違うのだ。では、どうやって過ごすのか。
向かいにはホテル・ザッハーが輝かしく立っていた。音楽祭期間中ここは一泊一番安くても300ユーロ以上。めぎの5~6泊分。
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休暇にしようと思うことが日本とはまるで違うとも言えるかも知れない。具体的に言えば、子どものいる人はユースホステルに泊まったりキャンプをしたりして過ごす。高校生や大学生もテントを担いでキャンプしながら一か月自転車でフランスやらベルギーやらを回ってくる。一般的には、知り合いの別荘を借りたり休暇用の庭付きアパルトメントを借りて自炊しながら、または朝晩の食事つきペンションに泊まって、ビーチや庭に寝転がって過ごしたり、アクティブな人なら滞在先で山歩きやハイキングやサイクリング。つまり、若者の自転車旅行以外は移動を伴う旅行はあまりせず、一ヵ所に留まり、そこでゆっくり寝るかスポーツするのが目的なのだ。休暇は文字通り休暇であって、旅行ではないと言うべきか。ドイツ人は、スポーツか読書以外ただただ何もしないという贅沢を2~3週間味わうのである。(3週間アジアや南米に行って観光してまわった場合は、別の時期に1週間くらい何もしない休暇を取るようである。)
食べたのはこのお店。早朝は誰もいなくて、ゆっくり朝の清々しい空気を吸いながら朝食を味わった。でも、日が当たるところは既にじりじりと暑くなってきていた。今年のザルツブルクは暑かったのだ。
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めぎの同僚たちの夏休みの話を聞くと・・・行き先はフランス、スペイン、イタリア、オランダ、デンマーク、チェコ、イギリス、北欧・・・と非常に多様だが、共通しているのは都市ではなく田舎や島に滞在していること。したことは、ビーチか庭かバルコニーで昼寝か読書、散歩、自転車を滞在先に持っていってサイクリング、キャンプ。自炊の人たちが作っていたものは、ハムやチーズ入りのパンケーキとか、茹でたジャガイモに何かのソースとか、スープにパンだけとか、バーベキューとか、缶詰を温めただけとか(!)、極めてシンプル。
目の前をひっきりなしに行き交う自転車。これから出勤という感じの人もいらし、休暇のサイクリングという感じの人もいたし、楽器を背負ってこれからレッスンなのかなという人もいた。
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このように、休暇が長い国ドイツの一般人は皆、慎ましいバカンスを送っているのである。学校教師はドイツ国内でも高給取りの方なのだから、一般の人たちの慎ましさたるや如何に。ちなみにドイツ人の休暇滞在先TOP10を見ると、1位がスペインのマヨルカ島で、その他カナリア諸島が4つ、ギリシャの島が2つと7ヵ所も島が占め、あとの3つもトルコの海岸、エジプトの海岸、チュニジアの海岸とビーチばかり。そして、往復飛行機と朝晩の食事つきペンション宿泊の1週間の値段が平均400~500ユーロ前後(約5万4千~6万7千円)。(情報はこちらから。)バカンス中は何もないところでビーチで横になるだけというのがよく分かる。
朝食後、川にかかるこの橋の方へ行ってみた。たくさんついているのは愛を誓い合った鍵。こういうのは今やどこにでもあるわね。橋の上はまだ通行人がこの程度。
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みなさまはドイツ人みたいな休暇を2週間も3週間も毎年毎年過ごしたいとお思いだろうか。ちょっとそれは退屈すぎ・・・1週間だって退屈、それに休暇中まで自炊はしたくないし、旅先で缶詰なんて味気ないこともしたくない、とは思わないだろうか。しかし、この退屈さこそが贅沢なのだ。それに、喩えお金があっても、3週間もサービスの行き届いたデラックスな宿に泊まっては肩が凝るし、星付きレストランや宿の土地や季節の特別料理も毎日毎日は飽きるし、3週間もあちこち旅を続けては疲れるだけだ。何もしないということをゆっくり味わえるようにならないと3週間の休暇は難しい。日本で長期休暇が根付かないのは、ここにも大きな理由があるような気がしてならない。
橋の上からザルツブルク旧市街を撮影。このアングルを何度写したことかしら・・・そうだ、あの城砦に上ってみなくちゃね。
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今回のめぎの休暇は、一ヵ所に18日間もいる長期滞在型で自炊の安いアパルトメント暮らしだけど、昼間は研修に、夜は音楽祭に、週末は観光にと予定ぎっしり。ドイツ式と日本式のマッチング。でも、普通の日本からのツアーなどと比べると、ずいぶんのんびりしたと思う・・・ベンチでぼんやりしたり、教会でぼんやりしたり、宿で昼寝したり。ここの名物を食べなきゃ、これを見なきゃ等々とあくせくせず、従って18日間もあったのにやらなかったこと、行かなかったところもいっぱい。
あの山の上にも登って写真撮りたいな・・・
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ところでめぎ家のバカンスの行き先だが・・・うちのドイツ人が自営業で日々は意外と暇そうなのに長期休みはなかなか取れないため、3週間ビーチでバカンスというようなことは実はほとんどしたことがない。これまで行ったところは、だいたい5日間~1週間くらいなら、スペイン、イタリア、ベルギー、オランダ、イギリス、フランス、ギリシャ、トルコ、ポーランド、チェコ、エストニアなど・・・2~3週間なら、日本、ハワイ、マレーシア。行き先のポイントは、夏は非日常。冬は+光。この「非日常」が本当に重要なポイントである。めぎはもともとドイツ語圏ではウィーン好きで、個人的に何度も何度もウィーンへ行っていた。語学研修を受けて1か月滞在したり旅行でも1週間単位で何度も訪れ、昔はウィーンで暮らしたいとも夢見ていた。縁あってデュッセルドルフに住み着いてしまったけど、当初は何度もウィーンへ遊びに行っていた。それがいつだったかウィーンに満腹満足し、ウィーン通いはぷっつりと途絶えた。たぶんドイツ暮らしでドイツ語圏の雰囲気が日常となり、学会などで機会があったときを除けばスイスへもわざわざ行こうと思わなかったし、オーストリアへも足がすっかり遠のいたのだった。いや、それどころか、長いことドイツ国内も、義母がいるザクセンと義父がいたハンブルク以外は足が遠のいていたのだった・・・長期休みがあればドイツ語圏を抜け出したかったし、そうしなければ日常から離れられず、リフレッシュできない気がしていた。つまり、めぎにとってはドイツもオーストリアもスイスも「ドイツ語圏」とひとくくりだった。
あそこからも見下ろしてみたいわねえ。この日から3日間は日中暇だったので、どこをどうまわろうか色々と考えをめぐらした。
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しかし、今回ザルツブルクへ行って、最も大きな発見だったと思うのは、外国だ~!とめぎ自身が感じたことである。ザルツブルクのオーストリア訛りは粘っこくて、英語で話してもらった方が分かりやすいんじゃないかと思うほどだったし、ドイツで当たり前なことがザルツブルクでは当たり前じゃなかったりする。10年くらい前にうちのドイツ人とウィーンを旅して、彼が「外国だ」と形容した感覚が今はめぎ自身が実感できるようになったのだった。
これは別の日の昼過ぎに散歩したときの写真。鍵のついた橋も入れて遠くから写した旧市街。
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だから、ドイツ語圏だけど、ザルツブルクで大いに日常を忘れてバカンスを存分に味わうことができた。粘っこい訛りはうちのドイツ人には耳障りだけどめぎには愛嬌が感じられたし、カトリックのぎらぎらごてごても豪華で美しく見えたし、山がいっぱいで景色の違いも楽しめたし、それどころかいつもは人混みが大嫌いなのに、昼間のこの人出さえもそれほど気にはならなかったのだった。
昼のこの橋はまっすぐはとても歩けないほどの人・人・人・・・
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それと同時に、もしかしたら過ごしやすかった最も大きな理由は、ドイツ語で生活できることだったかも知れない。ドイツ語はもちろんめぎにとっては外国語だが、日常語でもある。日常語で過ごすことのできる自由さ、気軽さ、安心、簡単さは、イタリアやフランスやスペインでは味わえない。日常語で過ごせるのに日本人だから外国人として扱ってもらえるし、ドイツと違って誰もが「ドイツ語上手ですね~」とびっくりしてくれるし、なんだかとってもいい気分をさせてもらえたのだった。歳取って一人遺されたら毎年3か月くらいザルツブルクで過ごすのも悪くないな、と本気で思っためぎだった。まあ、先立つものがあればだけど。
昼になると日差しがきつくて本当に暑かった。鍵をつけている人はなぜか見かけなかったのだけど、鍵を撮影している人は結構見かけた。でも、影を撮っている人はいなかったわね。
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つづく

撮影: Nikon 1 V3 + 18.5mm(F1.8)
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Baldhead1010

長期に休む、休まない・・・国民性もありますが、その国民性はどこから来ているのか。

こんなことを調べてみるのもおもしろいですね。
by Baldhead1010 (2015-08-21 04:35) 

ちばおハム

今年は海にいってないなあ、海に行こうかなあ。
あっ、台風だった。(週末台風15号が近づきます)
by ちばおハム (2015-08-21 07:56) 

YAP

時間を取るか、金を取るか、どちらが真の意味で人生が豊かになるかはわからないですね。
どちらが人間らしい生活かというと、多くの人は時間を選ぶでしょうが。
by YAP (2015-08-21 08:40) 

engrid

なるほどと思いつつ、読み進みました
何もしないのほほんな、、、
確かに、毎日非日常的な食事とか続くのは、疲れます
でも、せっかくみたいな気持ちもありますし、、
塩梅とバランスかな
外国だ、の感覚を持たれたということは、すっかりドイツが
根付いた日常になったからでしょうか
by engrid (2015-08-21 18:23) 

Inatimy

休暇中に自炊したくない、は頷けます^^。 
キャンピングカーで3週間だと、結局、食事の用意や後片付け、掃除に洗濯&干す作業と普段の家事、しかも簡易の慣れない設備でそれをしなくちゃいけないから余計にストレスになるし、同じお金をかけるなら期間が短くても、ちょこっとホテルに泊まるのがいいよね、とふたりでよく話してます。
何もしないより、家事をしない、大好きな散歩を気ままに出来るのが私にとっては贅沢なのかも^^。
by Inatimy (2015-08-21 20:40) 

ぽりぽり

ここも同じ場所を行きましたよぉ。綺麗に撮れていますねぇ。南京錠はかなりの重量になるそうで、パリの橋は全て撤去されましたよね。
by ぽりぽり (2015-08-22 17:25) 

sheri

ドイツの方は何週間も休暇をとってバカンス…ってこちらで何度か書かれていて、みんなリッチだなぁと思っていたら、そういう理由があったんですね。
とてもわかりやすい説明で納得しました。

日本は色々生活にお金がかかりすぎだなぁと思いました。
そうじゃなければ、もっとあちこち行けるのに~~!
by sheri (2015-08-22 19:03) 

mimimomo

もし3週間の休暇があったら、わたくしは自宅でゆっくりと思うわ。わざわざどこかへ出かけて行ってゆっくりと言うことは考えられないのよね~何故かなー
出かけた以上は動きたい^^
by mimimomo (2015-08-25 20:25)