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音楽祭の食事 [2012年バイロイト音楽祭]

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ここはバイロイト祝祭劇場。
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ワーグナーの楽劇は一公演平均4時間前後かかるのだが、祝祭劇場では幕間に1時間の休憩を取る。三幕ものだと休憩が2回、合計2時間あるということだ。休憩時間中にホールの中に残ることは禁じられていて、誰もが外に出なければならない。1時間もの休憩に何をするか。16時に始まって21~22時過ぎに終わるのだから喉も渇くしおなかも空くわけで、そこにはもちろん飲み物やスナックなどが売られている。それがこの建物だ。
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平屋のように見えるが、坂に建てられていて実は2階建て。上階は立ち食いエリア。多少椅子のあるテーブルもあるようだったが、基本的にスタンドで飲み物や食べ物を買って、自分で運んでそこで食べるというシステム。それに対し、下の階は、レストラン。ドイツの老舗高級ホテルSteigenbergerのレストランである。
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準備中のレストラン。めぎたちはバイロイトに到着した日の午後、公演中の祝祭劇場を訪ね、席の場所と食事の予約をしたのだ。予約自体は一ヶ月くらい前にしてあったのだけど、事前に訪ねて席の場所と食事を決めるようにとのお達し。それでこんな風にレストランをゆっくり撮影することもできた。
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メニューはこちら。こんなふうにメニューの左横に×印と個数を記しておく。左側は一回目の休憩時、右側は二回目の休憩時。下の空欄には飲み物を記入。暑いので2回ともミネラルウオーターを、そして2回目の休憩の時にはこの地方のワインであるフランケンワインを。バイロイト音楽祭とSteigenbergerレストランとの2つのビッグネームで目の玉の飛び出るお値段だが、せっかくの機会なので優雅に楽しむことにした。
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席は外のテラスを希望した。カサもあるから万一の雨でも大丈夫だし、中より気持ちよさそうだったので。でも、外の席は限られている上、希望者が多いそうで、相席になるとハッキリ言われた。そこで、うちのドイツ人が、もし相席になるなら日本人とがいいな、などと希望を述べた。日本人となら自分はあまり話さずに済むからだって!おいおい・・・
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さて、当日。めぎたちは3公演あるうち2日目のタンホイザーの日にレストランを予約していた。その理由は、うちのドイツ人がタンホイザーが嫌いなので、幕間にお楽しみを用意することで多少我慢できるから、ということ。結果的にはタンホイザーもなかなか面白くて食事無しでも十分楽しめたのだが、この食事があったおかげでさらに楽しく感じたことも事実。また、3公演のうち最も短いタンホイザー(それでも3時間以上かかるのだが)は、ワインを飲んだあとでも幕が短いので集中力が保つ。
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行ってみたら、相席になっていたのは日本人じゃなくて、ドイツ人の老夫婦だった。バイロイト音楽祭に来たのは初めてで、10年間申し込み続けてようやくチケットの割り当てが当たったとのこと。うちの9年間より長く時間かかった人がいたなんて。彼らはもともとはバイロイト近くの出身のようだけど、今はスイスに住んでいて、さらに一年の半分はシンガポールに住んでいるという。ご主人は定年して、自分の好きな程度にだけたまに仕事をしているとのこと。奥様は中国語を習っているとか。ああ、素敵ですねえ、我々も定年後は好きな程度に仕事をしつつ一年の半分はドイツで、あとの半分は日本で過ごすのが夢なんですよ~と話がどんどん弾んでいった。1回目の休憩の最初に食べたのはめぎは牛肉のカルパッチョ、うちのドイツ人はフォアグラ。ワインはぐっと我慢して、ミネラルウオーター。暑かったので、水がとても美味しい。
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そして、なんとびっくりしたことに、ご主人はスキーが好きで、毎年2~3月頃にわざわざ日本へスキー旅行しているのだという。今まで行ったところはニセコに蔵王に・・・と。スイスにいるのにどうして日本へスキーに?と尋ねたら、日本の雪は量も質もスイスよりずっといいのだそうだ。そして、温泉に泊まるのがとても楽しいのだとか。日本語は「ありがとう」以外全くできないが、仕事上で知り合った日本人がいつも招いてくれて、それが毎年の楽しみらしい。へえええ。こんなバイロイトにまで来て北海道のニセコという言葉を聞くなんて。びっくり。これは、偶然?それとも、この老夫婦のご主人が、できれば日本人と座りたいとでも言ったのかしら(まさかね~)。そうだとしても、このレストランを予約したのはうちのドイツ人で、書類上日本人のめぎの名前はどこにもないのだが。ただ、席と食事の予約に行ったとき、めぎも同行してドイツ語を話していたこと、かつうちのドイツ人が「日本人と相席したい」などと言ったことからめぎが日本人であると推測できること等々、このレストランの人がこの日本好きの老夫婦と相席させた理由が考えられなくもない。もしそうだとしたら、ほんと、プロの仕事だなあ・・・などと考えがぐるぐると。少なくとも、この老夫婦もうちのドイツ人と同じようにこの席に座りたいと希望したということで、日本好みのドイツ人たちは嗜好が似ているのかも知れない。
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このあとエスプレッソに、うちのドイツ人は黒い森のサクランボケーキを・・・
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めぎはアプフェルシュトゥルデル(ドイツのアップルケーキの一種)を。外はパリパリ、中は熱々で美味しかった♪
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45分くらいでゆっくり食べ終わり、また後ほど、と老夫婦と別れ、お手洗いに行ったり休憩の終わりを告げるブラスの演奏を見たりして、またホールの中へ。
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そして、2幕目が終わって、2回目の休憩に。さっきの老夫婦となかなか面白い演出でしたねえ、などとお話ししながら、めぎはまずオマールエビの前菜を。うちのドイツ人は仔牛の出汁のスープだったかな。隣の老夫婦もフランケンワインを。
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後ろの席、人が入れ替わってるところがある・・・そうよね、休憩1回目だけ、または2回目だけに食事を予約することもできるものね。写してないけど、実はめぎたちのテーブルの近くに日本人カップル(もしかしたら韓国人か中国人かも知れない)が座ってて、1回目の休憩の時には相席なしで二人っきり、2回目の時には相席だった。先日のコメントにあったように、たしかに全く相席の人と話しているようではなかった・・・言葉の問題もあるのだろうけど、たしかに残念なことね。食べ終わったその(推定)日本人のお二人は早々に会計を済ませてどこかへ行ってしまった。もしうちのドイツ人の願い通り彼らと相席になっていたら、どんな展開になっていたかしら。ちょっとお話ししてみたかったな・・・今回バイロイト音楽祭で何人か日本人と思われるカップルを見かけたけど、誰とも言葉を交わす機会がなかった。
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相席の老夫婦と楽しく話しながら料理を味わっていると、お店の人がちゃんと頃合いに水やワインを注ぎに来てくれて、食べ終わるとすぐに下げて次のを持ってくる。その手際の良さはてきぱきと素晴らしく、何テーブルも担当してそれを全て同時にきっかり一時間で食事を終わらせなければならなくてとっても忙しいはずなのに決してせかせかしてなくて、愛想も素晴らしくよい。メインディッシュは、めぎはSeeteufel(海の悪魔)=アンコウをゴマの衣をつけて焼いたものにカルヴァドスのソース♪ 赤いのはお米。うちのドイツ人はSpanferkel=乳飲み子の子豚。この子豚さんが絶品だったとか。アンコウも美味しかったけど、量的にめぎは途中でギブアップ。もっと長い演目の日だったら完食できたと思うのだけど、さっきの1回目の休憩から一時間ではおなかもこなれず。相席のお二人はチーズを食べていた。
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さて、お会計だが、それはドイツとは思えないほれぼれするほど要領の良さで、この食事の中で最も印象に残った。ここではこの時代に全く電子機器を使わず、全て手作業なのだ。テーブルには砂糖入れにボールペンもさしてあって、注文は全てメニューに書き込む。
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そして、右側の欄をレストランの人が会計に利用し、合計金額も手作業で記入する。1回目の休憩が終わるまでに2回目の飲み物や追加の注文をしておくよう客に促し、2回目の休憩が始まるまでに計算が全て完了していた。もちろんさらに追加注文が入ることもあるだろうが、たいていはお客の側もそれに従っているという印象。メニューが水でくっついてしまい、剥がして汚くなってしまったが、会計のやり方はこの写真でお分かりいただけると思う。この食事が3公演二人分のチケット代より高かったことにも注目!
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さらに、こういうところでは普通みんなクレジットカードを使用するが、これも今時普通の通信システムではなく、昔ながらのガッチャン方式なのだ。係の人によれば、1時間の休憩中に何百人分もの食事と会計を時間厳守で済ませるために、通信システムは使えないのだそう。手際よくガッチャン方式で次々とサインを済まし、あと10分ですよ、のブラスの演奏に即されて、20ユーロくらいのチップをテーブルに残してさくっと去っていく人々・・・たいていの席はここで席に向かわないと間に合わないのだが、これが決してバタバタという感じではなく、きちんと値段を確かめてしっかりサインし、相席の人にお別れの挨拶をする余裕もある。本当に素晴らしい要領の良さだった。
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相席の老夫婦はチケットがこの日と次の日の2公演分割り当てられたのだけど、次の日のは娘夫婦に譲ったのだとか。明日もまたここのレストランに来ますか?と聞かれ、いえいえ、今日だけです(こんなの毎日続けたらめぎ家は破産しちゃうわ~)・・・そうですか、残念。娘たちも会えるかなと思ったけど、それじゃ仕方がない、あなた方とご一緒できてとても楽しかった、ありがとう、お元気で・・・こちらこそ・・・というお別れをして、うちのドイツ人が会計を済ませている間にテーブルにあったご主人の名前をふと見ると、教授という肩書きが(ドイツ語では博士や教授の場合名前の前に必ずその称号を書くのだ)。おおお、あの物腰、あの柔らかで控えめな話し方は、教授さんだったのね。ドイツの大学で定年してから、スイスとシンガポールで名誉教授職についているんだな、きっと。うちに帰ってネットで調べてみたら、測量法学の権威の方らしかった。へえええ。文化系じゃないんだ・・・ああ、でもたしかに、演出とかワーグナーについてとかタンホイザー伝説についてとか蘊蓄は何も語らず、ただ公演を楽しんでいるようだったものなあ。それにしても、教授という職にある方でも、その道の権威の方でも、チケット取得に10年もかかり、2公演しか割り当てられなかったりするのね(きっとめぎ家と違ってもっといい席を注文してて、だからこそ倍率も高いのだろうけど)。ドイツって、機会均等という意味でほんと平等な国だなあ。
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・・・という音楽祭の食事の顛末。とっても心に残る経験になった。
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明日は残りの2公演の休憩時のお話を。
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Baldhead1010

おはようございます。

どのお料理もボリュームたっぷりですね。
by Baldhead1010 (2012-08-21 04:16) 

ちばおハム

合席というシステム、日本ではあまりないですものね。
お食事楽しかったという雰囲気が伝わってきました。

by ちばおハム (2012-08-21 05:35) 

母ちゃん

皆さん素敵な装いですね~♪ やっぱり大人の音楽祭ですね(^^)
by 母ちゃん (2012-08-21 05:54) 

krause

素晴らしい食事と素敵な相席の方たち、うらやましいです^^。私も、いつか行きたくなりました。
by krause (2012-08-21 06:31) 

HIROMI

おはようございます。
お食事の話題、大好きです。素晴らしい、リッチな食事ですね。

ドイツも猛暑日だったとか。水分補給をこまめにしてくださいね。
by HIROMI (2012-08-21 06:42) 

mimimomo

ちょっと舌ハイソサィヤティのムード。
めぎさんはドイツ語はお得意だからいいですね。
by mimimomo (2012-08-21 06:53) 

YAP

食事も優雅ですね。
これもまた雰囲気を盛り上げてくれそうです。
by YAP (2012-08-21 08:13) 

Bonheur

音楽会もさることながら、美味しいお食事に、心に残る一期一会の出会い、上質な時間ですね。
ニセコには去年行きましたが、一時期外国人であふれ、地元も活気づいたそうですが、リーマンショック後はまた寂れつつあるとか。 でも、海外の方に「日本って良いですよね」とか言われるととっても嬉しいなぁ。ちょっと日本を離れて戻ると日本の良さがよくわかります。
by Bonheur (2012-08-21 20:17) 

Inatimy

オマールエビ、大きい~。
目が飛び出るほどの料金でも、素敵な老夫婦との相席や、タイミング抜群のサービス、接客態度や雰囲気、手際の良さとなると、納得行くかも。
気分よく食べられる環境って、その後の鑑賞もますます楽しめますね♪
by Inatimy (2012-08-21 21:12) 

テリー

ニセコは、パウダースノウで、素晴らしい雪質ですので、若い頃、よく、スキーに行きました。その後、外国人が、たくさん来るようになっていると、ニュースにもなっていました。
レストランの場所を事前に下見して、自分で決めるとは、面白いですね。
by テリー (2012-08-21 21:19) 

のの

素敵(^^)*
別世界なお話というか、小説か物語を読むような気持ちで
拝読致しました。
ご夫婦揃っての共通の趣味、いいですね~。
私も日曜に田舎から横浜へ戻ってきましたがまだブログの更新はもうちょっと先になりそうです・・。
旦那さんの出張話っていつも突然なんですが、今日の昼間「急な依頼があったから明日からフランスだけど、行っていいか」と
仕事中メールがあり、びっくりしました(@@)
というわけで、明日から6日間そちらのほうへ行くようです。
フランスって・・寒いのかなぁ・・。
いいなぁ(><)・・・・私もスーツケースに入って行きたい・・w
あ。リュック1個で行くらしいです。w
by のの (2012-08-21 21:21) 

stellaria

相席で素敵な出会いがあってよかったですね〜。お相手のご夫婦もめぎさんたちとご一緒で、楽しい時間を過ごされたことと思います。
by stellaria (2012-08-21 23:11) 

夢空

食事とはこいういうもの。。なんですね(^_^)
なかなか日本人には出来ないことなのかも。
ゆっくり時間をかけて食事を楽しむことって・・。

by 夢空 (2012-08-21 23:41) 

たいちさん

ゴージャスですね。このような音楽祭は、一生行けないので、ブログ記事と写真で楽しんでいますね。
by たいちさん (2012-08-22 10:47)