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バイロイト音楽祭を経験して [2012年バイロイト音楽祭]

バイロイトをこの目で見て、その場を体験して、いったい何から書いてよいか分からない・・・書きたいことがいっぱいあるけれど、なんだか心の整理がつかなくて。まだ飲み込んだばかりで、全く消化していない感じ。でも、その時期だからこそ書ける勢いというのがあるのかも知れない。記憶を書き留めておきたいというレベルにしかならないけれど。
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まず、劇場の中はこんな感じ。内部は撮影禁止だったので、今日のブログの写真は様々なネット記事からの引用。めぎたちが座ったのは天井近く、右上の四角い空間の端っこだ。この劇場には空調が無く、満席の人々の熱気で2幕3幕と進むうちに桟敷席はものすごく暑くなる。下の方の席も暑かったようで、男性たちはみんな上着を脱いでいたけれど。椅子は木製で、大学の講義室の椅子のようなイメージ。そして、中央に通路が無く、観客は左右の端から入っていくしかない。真ん中の方の人が席に着くまで、端の人は立って待っているという仕組み。つまり、極めて古く、居心地は抜群に悪い。照明が蝋燭やガスから電気に代わった以外はほぼワーグナーが建てた通りのままなのだ。(写真はこちらから)
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よくそう聞いていたが、音は本当に素晴らしい。何と素晴らしいオーケストラの演奏。何と素晴らしい合唱。完璧だ。そして、劇場自体が楽器の一つのようにそのハーモニーを包み込み、響かせている。欲を言えば、席が桟敷席だった所為もあるのかも知れないが、小さな音から大きな音までの幅がどうもちょっと狭い気がする。もっと大きな音を期待したところで今一つだったし、もっと耳をすましたいところで結構大きく聞こえたり。

このオケも合唱も、この音楽祭の時期にだけここに集まっている人たちで、専属というわけではないのがすごい。オペラがオフシーズンの今、普段はどこかのオペラ座の専属か、まだ定職がないかの弾き手・吹き手・歌い手さんたちが夏休み中アルバイトのようにバイロイトで稼いでいるのだ。もちろん普通のアルバイトと違って、これに出られるのは晴れがましいことなのだろうけれど、うちのドイツ人や義父や奥さん(この3人はハンブルクの国立オペラ座に所属していた)によれば、老いも若きも関係なく同僚で独り身の人が夏に一人で休暇に行くよりはとバイロイトに働きに行っていたそうなのだ。家族ができたり恋人ができたりするとそれをやめてしまい、従ってバイロイト音楽祭のオケと合唱は毎年メンバーが入れ替わるというわけだ。なるほどねえ・・・一部のソリストを除けば、そういう人たちがこの質を支えているわけね。それは舞台の大道具や照明や衣装スタッフなども同じだそう。

そして、連日こんなにたくさんの人たちがここをこんな風に埋め尽くしているというわけだ。めぎたちが座ったのは、あの一番上のところ。天井に手が届きそうに感じるほど近かった。あそこには4列あって、2夜は最前列だけど端っこに(一枚40ユーロ)、1夜は割と真ん中だけど3列目に(一枚35ユーロ)。二人でチケット代は3夜合計230ユーロ(=約2万3千円)。ちなみに写真で下に座っている人たちの席は一枚185~280ユーロ。2階席は一枚155~250ユーロで、3階席は95~195ユーロ。3夜連続、または全公演5夜連続二人分となると、めぎ家にはとても払えない。社交界の場でもある世界に名だたる音楽祭でこういう破格の桟敷席を設けているところが、さすがドイツという気がする。暑いし、舞台がちょっと見えない部分があるし(でもほんのちょっとなのでほとんど気にならない)、エレベーターがないので階段をひたすら(休憩の度に降りるから全部で一日3回も)上がらなきゃならないが。もしかしたら音の質も多少違うのかも知れない。(写真はこちらから)
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ここからの話はワーグナーの楽劇のあらすじの話を予め知っていないと何が何だか分からないと思う。でも、あらすじはネットを引けば出てくるし、世の中に翻訳やワーグナー専門書はごまんとあるし、当ブログはめぎの個人的体験を書くところだし、筋を説明していると長すぎるので、ここでは扱わない。あしからずご容赦を。

今回最も感動したのは、最後に見た「パルジファル」だった。これを見て、ここに来た価値があった、と強く感じた。ああ、オペラはまだ死んでいないんだな、とも思った。あまりにも面白くて、あまりにも引き込まれて、ものすごく長いのに時間を忘れたし、そこが祝祭劇場であることも、それがワーグナーの作品であることも、暑いことも帯がきついことも忘れた。最初の序曲の段階から、ト書きには全く無い斬新な解釈の演出・迫真の演技にすっかり引き込まれた。舞台はワーグナーのヴィラであるWahnfriedの建物で、パルジファルはワーグナー自身なのかという演出でもあった。(写真はこちらから)
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Wahnfriedの建物はこちら。ね、同じでしょ。前の泉まで同じ。(写真はこちらから)
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今回からパルジファルに限りバイロイト公演が映画館で同時上映された。それが次の日にドイツのテレビでも放送され、それがYou Tubeにも載っている。すごい世の中になったものだ。ドイツ語字幕つきなのが面白い。ドイツ人でもやっぱりオペラ歌手のドイツ語は聞き取りにくいのね。せっかくなので、ここにリンクを張ることにする。以下、(時間)はそのYou Tube上の時間。一幕目だけで1時間42分ほどあるが、お時間のある方は言葉が分からなくても是非。音楽がお好きな方は是非序曲だけでも。めぎの説明の箇所を見たければその時間の部分のみどうぞ。



まず、序曲での演出で度肝を抜かれた。ワーグナー自筆の台本にも、中世の聖杯伝説の叙事詩にも、パルジファルが母親のトラウマを抱えていたなどとは一言も書かれていない(最初から11分35秒くらいまで、1時間27分30秒から2分間くらい)。しかし、そう解釈すれば、なぜパルジファルが愚者で何も覚えていなかったのか、心理学的に説明がつく。この演出家、すごいなあ。母親とクンドリがあたかも同一人物であるかのようで、何と斬新なんだろう(57分17秒)。そして、聖杯城への道がパルジファルの生まれたシーンだったり(1時間5分から2分半くらい)、聖杯の儀式中に母親が生き返って近親相姦が行われたり(1時間26分くらいから)、聖餐が第一次世界大戦と結びつけられたり(1時間30分くらいから)、息をつく暇がない。イルージョンの連続で複雑に絡み合って折り重なって行くのだが、そうよね、そうかも知れないわよね、としっくり合点のいく演出で、脱帽だった。歌はないが子役の演技が素晴らしかったことも、引き込まれた大きな理由だ。特に、水浴のシーンではこの先どうなるのかしら、と目が離せなかった(26分30秒くらいから)。

二幕目もなかなか面白かった。まず、You Tubeの映像のリンク。



騎士たちが兵士で表現され、まやかしの慰めを受けるというのは現代らしさ。それにしても、オペラに行って、それもバイロイトへ行って、これほど何度もベッドシーンを見るとは。この子役の子どもは、演技とは言えこれほどリアルな大人の世界のシーンを目の当たりにして、いったいどんな風に育つのかな、とちょっと思ったり(9分くらいから2分間くらい)。時にどぎつくホラーのようでもあり、手品かマジックかと思うようなところもあり、何が今で何が幻覚で何が深層心理なのかわからなくなるほど複雑に絡み合っていた。(写真はこちらから)
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花の少女たちがまるでコスプレのよう(16分くらいから8分間くらい)。(写真はこちらから)
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そして話が進んでクリングゾールとのシーンでナチスが出てきたのは、ああやっぱり、と思ったが(1時間2分くらいから)、国を代表する文化遺産の場で、政治家や名だたる企業のお偉方も集う社交界の場で、負の遺産に正面から向かうドイツの姿勢はすごい。そこでふと、一幕目の「僕を脅したのは悪い奴らだったの?いい奴は誰?」というパルジファルの台詞を思い出しためぎだった。

一幕目のインテンシヴさと斬新さを思うと、三幕目はお決まりという感じでちょっとイマイチだったが、舞台の中に舞台があるという構造や(3分20秒くらいから約1分間)、外側の人々を中に引き込むという手法(40分40秒くらいから4分間くらい)、最初の荒廃した城のシーンが第二次世界大戦後のドイツのようだったり(4分40秒)、ドイツ議会が最後の聖杯の儀式の場になったり(52分15秒くらいから)、よく考えているなあという印象。パルジファルと母親との関係がその後どうなったのか、はっきりと示されなかったのが残念なところ。



以上、16時に始まって、2回の休憩を挟んで終演が22時10分。終わったあとは放心状態だった。その後数日も胃もたれ状態だった。ここまで書いた今、ようやく腸までやってきたという感じだろうか。全てが血や肉になるのはもう少し先のことだろう。ちなみにこのパルジファルはNHKのBSプレミアムで26日深夜(日付では27日)に放送されるそうだ。興味のある方は是非。


その前日のタンホイザーも斬新な演出で、めぎはとっても楽しめた。タンホイザー嫌いのうちのドイツ人もずいぶん楽しんだようだった。なにしろヴェヌスが四六時中出てきてエリーザベトの目の前で誘惑してるし、あの有名な「夕星の歌」もヴェヌスとダンスしながら歌うのだから、まあびっくり。欲を言えば、やっぱりパリ版のようにバレエがあったらなあと思うし、うちのドイツ人は女性たちのコスチュームがズボンだったのがすごく残念だったようだけど。(写真はこちらから)
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そして、最初に見たトリスタンとイゾルデは、めぎ的には全然面白くなかった。もともとあまり動きが無くて登場人物もほんの数人に限られているのに長くて暗くて、演出も伏線で何か新しい解釈を重ねていくわけではなくただ奇抜な格好や場所にしているだけで、退屈だったのだ。めぎには内容から考えてどうしてイゾルデがこんな黄色の服装なのかどうしても理解できないし、このあと電気がちかちかするのだけど、それが何を表現しようとしているのかもよく分からなかった。3幕では病院のベッドが出てくるのだが、そのベッドが何のために必要なのかも全く理解できなかった。斬新にベッドを置けばいいというものじゃない。こんなにつまらないなら、元々の台本通りの舞台設定にしてよ、と思ったほどだった。ただ、音楽は素晴らしかった。ソリストたちはブランゲーネ役以外それほど素晴らしいと思わなかったが、全部で4時間以上ほぼ二人だけで歌い続けるトリスタン役とイゾルデ役の二人の体力と技術には拍手を送りたい。(写真はこちらから。)
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そんな3夜連続の観劇。行く前は、カタリーナ・ワーグナーの代になったバイロイトにはもはや興味がないなどとうちのドイツ人が言い、今回行ってみてつまらなかったらこれで申し込みはやめよう、などと話していた。1日目はこんな長いのをこんな窮屈な格好で見続けるなんて・・・と2幕目ぐらいでブルーになって、3幕目には我慢大会みたいな気分だったのだけど、2日目が意外に面白く、3日目でこれほど感動できるとは。行ってみないと分からない、何事も経験無しに判断はできないものだなあ、とつくづく思った。特に、パルジファルでオペラに未来が開けたような気がして、またいつか新しい感動を期待できるかも、という気持ちが芽生え、これからもまた毎年バイロイト音楽祭のチケットを申し込み続けようと決めためぎ家であった。また当たったときにも桟敷席まで着物で階段を上れる体力を温存しておかなくちゃ。

明日は会場での食事のお話を。
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Baldhead1010

おはようございます。

古い建物でも音響設備は素晴らしいものがあるでしょうね。
by Baldhead1010 (2012-08-20 04:44) 

krause

感動的な雰囲気、そして劇は意外と斬新ですね^^。
by krause (2012-08-20 07:20) 

YAP

古典的な造りの劇場での観覧が、これらの楽曲が最初に演奏されていた当時と同じスタイルでできるというところに、より高い魅力を感じました。
ダイナミックレンジが小さく感じられたというのが桟敷席故のことだとしたら、それはそれでとても興味深いです。
当時の技術で音響も考えられて造られた劇場でしょうが、もしかすると、小さな音がずっと後でも聴き取れるように、なんてことまで考えられていたとしたら、すごいことです。
by YAP (2012-08-20 08:59) 

たいちさん

「パルジファル」については、知らなかったので、サイトであらすじを読みました。キリスト教徒でない日本人には、難しいストーリーですね。
動画の中では、背後に並ぶベットの中の動きが気になりましたね。
by たいちさん (2012-08-20 14:34) 

Bonheur

記事が力作ですね!
今までワーグナーに興味を持ったことはなかったのですが、めぎさんの先日のバイロイトの記事で、ワーグナーのプロフィールが気になり、何となく検索したら、彼はライプチヒ出身ということで俄然興味がわきました。私事ですが、昨年末ライプチヒを訪れた際、初めて訪れ、また事前に地図や標識などを見なかったにもかかわらず、バッハのトーマス教会に引き寄せられるかのようにたどり着きました。また、その近くの喫茶店やライプチヒ大学に懐かしさを覚えたり、不思議な感覚でした。

私もワーグナーの曲やオペラをyoutubeでいろいろ見てみることにします♪
by Bonheur (2012-08-20 20:03) 

HIROMI

エアコンが無くても、イスが固くても、座るのに待って不便でも、エレベーターが無くても、昔のまんまの劇場を愛しているのでしょうね。
by HIROMI (2012-08-20 20:59) 

miffy

ワーグナーの音楽は昔から好きでした。
パルジファルに興味を持ったのはルードヴィッヒ絡みでしたけど^^;
バイロイト音楽祭いつか行ってみたいです。
by miffy (2012-08-20 21:26) 

ぽりぽり

舞台装置や装飾が現代的な雰囲気ですねぇ。 こればかりは体感したものにしか本当の感動は有り得ないのでしょうが、また私の知らない世界を教えて頂きました。
by ぽりぽり (2012-08-20 23:01) 

Inatimy

空調もないなら、舞台で演じる側の人々や演奏をする人々も大変でしょうねぇ。
もっと古典風なものを想像していたので、演出の目新しさにぐっとひきこまれました。
時間がある時に、youtubeの映像、通して観ようかな。
by Inatimy (2012-08-20 23:30) 

夢空

えーっ、えーっという内容で、ちょっとびっくり~。
そして、めぎさんの記事☆すごい~(^_^)/
BSですね、情報もありがとうございます☆
by 夢空 (2012-08-21 00:12) 

mimimomo

何よりも音を大事にされた建物なのですね~
by mimimomo (2012-08-21 06:49) 

もんとれ

2週遅れて拝読。はああああ、読み応えあるぅ。素晴らしい。
by もんとれ (2012-09-07 13:10)