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バイロイトへ [2012年バイロイト音楽祭]

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昨日の記事の続きとしては、あのあとグッビオに移動し、妹と会ったりまた散歩したり山に登ったり海まで出かけたりするわけだが、イタリア・ウンブリア州の旅行記はこれからしばらく中断する。というのは、今年の冬に記事にしたように、これからめぎ家は今年最大のハイライト、バイロイトへ出発するのだ。
(バイロイトに興味のない方は写真をどうぞ。これはイタリアから買ってきたデザートワイン♡)
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思えば、めぎとうちのドイツ人を結びつけたきっかけの一つであるワーグナー。めぎは彼の蔵書のいくつかを見てこの人とは合うということを直感したのだが、その一つがワーグナーの研究書だった。また、うちのドイツ人も、めぎがオペラ好きでしかもワーグナーを理解するということで、いっぺんにめぎに惚れ込んだのだった。
(これも同じくイタリアから買ってきた生ハムやサラミ。ペコリーノチーズも買ってきたのだけど、それは写し忘れちゃった。)
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ちなみにめぎとうちのドイツ人の初デートはヴェルディのマクベス鑑賞で、イタリア・オペラも機会あれば楽しんでいるのであり、ワーグナーのみが素晴らしいと思っているわけでは決してない。でも、あの頭韻をふむドイツ語の素晴らしい詩や、無限旋律の人を陶酔させる音楽性、そして心の深層をえぐるような神話のテーマには、他の何も寄せ付けない魔力があると感じる。バイロイト音楽祭に行くことが「ワーグナー詣で」と呼ばれるように、バイロイト劇場が「祝祭劇場」という名であるように、ワーグナーの楽劇は一種の宗教のようなものである。
(これはうちのドイツ人がジャガイモを茹でて潰して小麦粉とグリースという粉でつないで作ったニョッキ。)
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どういう風に宗教的なのか。その音楽は無限旋律といって区切りや終わりが無くいつまでも続いて人を陶酔させるのだ。お経とか呪文とかマントラとかに似ていると言えばいいだろうか。そこでは個人というものが埋没し、人は自分を忘れ、その音楽の中に包まれ、取り込まれ、その音楽と一体化する。ある意味非常に恐ろしい効果だ。だからこそ、ナチズムと結びつくのだろう。どちらがどう相手を利用したかは私は専門家ではないので筆を控えるが、ナチズムが目指した全体主義は、この音楽のもたらす効果とぴったり重なるのだ。
(そして、イタリアから買ってきたベーコンの脂身のようなものをベースにドイツのトマトとハーブで作ってみたトマトソース。美味しかったけど、まだまだ試作中。)
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ワーグナーの楽劇はこのようにただの音楽ではない。政治的なアプローチ、神話からのアプローチ、深層心理学的アプローチ等々、様々なアプローチの仕方があって、あまりにも果てしなく、あまりにも深すぎる。めぎに理解できていることなど、ほんの氷山の一角だろう。それでも、かつて学生時代にワーグナー概論という講義を受けてから今まで、私なりに生涯の趣味の一つとしてずっとワーグナーに取り組み続けてきた。取り組むと言っても別に研究しているわけじゃなく、歌っているわけでもなく、ワーグナー協会に属しているわけでもなく、趣味としてワーグナーの音楽に触れ続け、感じ続け、考え続けてきたというだけのことだけど。ワーグナー好きで、舞台で演じてもいたプロのオペラ歌手だった義父からも、ずいぶん色々な話を聞いた。そういう家族に出会ったのは、運命だったんだな、と思う。
(オリーブオイルはもっと大きな缶のを買えばよかったわねえ。)
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あのドミンゴが初めてワーグナーを歌ったのは68年のハンブルクで、その頃既にうちのドイツ人と彼の父親はそこで働いていて(父親はハンブルク・オペラ座付きの歌手だったし、うちのドイツ人は子役だった)、彼らはドミンゴと一緒にいくつかのオペラで舞台に立っている。例えばうちのドイツ人はドミンゴがハンブルクでデビューした67年にラ・ボエームで共演していて、彼のすぐ隣で一緒に歌い、舞台裏で一緒にサッカーをしたのだとか。だから、彼の歌がどれほど素晴らしいかをよく聞かされた。一方で、うちのドイツ人と父親とその奥さんは口を揃えて、ドミンゴはイタリア・オペラに最適な声をしていてワーグナーには向かなかった、という。それでも素人のめぎは、彼がバイロイトに出ているうちに見に行くことができていたらよかったのになあ、と思うのが正直なところ。いや、もっともっと昔、バイロイトが華のように輝いていた頃に行けていたらなあ。うちには50年代のバイロイトの録音のCDがあったりして、それを聴くと、芸術って素晴らしいなと感じる。それがその場に行けば歌手も合唱もオーケストラも舞台装置も照明もなにもかもが一体となっていて、総合芸術たるものが実感できるんだろうな。
(今回のイタリアの旅では飛行機で荷物一人23キロまでOKだったので、結構たくさん液体を購入した。右と左のがその一部。)
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そう、総合芸術・・・ワーグナーは、自分で音楽のみならず詩を書き、台本を書き、舞台装置や照明や衣装を考え、自分で自分の作品にあった劇場を建て、自分で指揮をして公演したのだ。何という才能。そして、普通のオペラ座が街中にあって、仕事を終えたあと気分転換にちょっとデートでオペラでも見に行きましょ、というノリで観劇されるようなのを否定し、そこに泊まり込んで、一日体調を整え、夕方から長時間缶詰状態で観劇し、陶酔する、しかも「ニーベルングの指輪」の場合4夜連続で陶酔する(今は休日が挟まってるけど)、つまり公演期間はその楽劇中心の生活を送ることを強いたのである。
(このリキュールワインも美味しかった♡)
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ワーグナーの楽劇は上に書いたように無限旋律で区切れが無く、イタリア・オペラのようにアリアとかレチタティーヴォとか細かく分かれてもなく、従って普通イタリア・オペラがあちこちカットして短縮してハイライトのみを公演しているのに対し、どこもカットできず全作品を演奏しなければならないようになっている。だから、ものすごく長い。一公演4時間以上かかるものもある。それに向けて体調を整えないととても最後まで見切れない。本当に覚悟ある者しかその修行に耐えきれないという感じだろうか。バイロイト音楽祭に関しては、お洒落で豪華で美しくて楽しくて、というのとはほど遠く、苦行に近いものなのではないかと思う。しかし、それは何という贅沢だろう。
(美味しいものはあっという間に飲んでしまう・・・一緒に写したトマトピューレのパックは、coopにいっぱい売られていたので、もしかしてイタリアのは味が濃いかなと思って軽いパックのを買ってみたのだけど、これよりはドイツの真夏の生のトマトを使った方が美味しいと判明。)
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さて、めぎにとって最も難関なのは、やはり言葉である。ネイティブだったらもっとあの詩の素晴らしさを体感できるんだろうと思うと、ちょっと悔しい。少しでもそれに近づきたいと思って、めぎたちが見る予定の3演目は予め読んでおくことにした。意味を知りたいのではなく(意味なら世の中に翻訳がいくらでもあって、めぎも日本語で読んだ方がよっぽど早い)、その詩を味わいたいと思ったから。
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めぎはワーグナーの主な楽劇のテキストは学生時代に買ってあった。下の「パルジファル」の写真は左がうちのドイツ人ので、右がめぎの。うちのドイツ人のは亀の子文字。パルジファルは中世の叙事詩を読んだときから好きだった。だから、とっても楽しみ。
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「トリスタンとイゾルデ」。この絵、すてきねえ。でもこの台本は台詞が長くて長くて正直閉口したが。もう分かったから次行こうよ、と思うところいっぱい。私、トリスタン伝説はあまり好きじゃなくてねえ・・・媚薬で恋に落ちて破滅する話は、あまりタイプじゃない。もっと意志が欲しいの。
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この古い本は、うちのドイツ人が76年に古本で買ったものなのだが・・・
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中に新聞の切り抜きが挟まっていた。
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それを見ると、55年のもの。うちのドイツ人が生まれるよりも前の新聞記事だ。アントン・ヴェーベルンの死後10年目に向けての記事。それがワーグナーの楽劇の本に挟まっているなんて。この本を所有していた人が、この記事を切り抜いてこれに挟んで、それがそのまま古本として売られ、うちのドイツ人が買い、それをめぎが手にするなんて、なんて面白いこと・・・話は逸れるけど、紙の持つ力って、なんて素敵なのかしら。デジタルでは決して起こり得ないこの出来事に、もうきっと亡くなっているであろうこの本の見知らぬ元所有者に思いを馳せためぎ。
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「タンホイザー」はうちのドイツ人が唯一嫌いな作品で、彼は本を持っていない。でも、めぎはこの話が好き。ヴェヌスとエリーザベトとの間で迷う男の姿にはすごく共感できるから。この本はめぎがかつて神保町の古書街で、元の持ち主の書き込みがあるのをただ同然で手に入れたもの。
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Bühne(=舞台)とかも調べてある・・・この人、読むの、大変だったんだろうな。だって、このページにしか書き込みが無くて、そのあとはまっさらなんだもの。この人、今はどこで何をしているのかな。ドイツ語と関わって生きているのかな・・・とこれまた見知らぬ人に思いを馳せた。紙の媒体ってロマンがあっていいわねえ。かつて自分がドイツ語に取り組み始めた頃のことを懐かしく振り返るいい機会にもなった。誰しも、めぎも、こういう時代があって、今がある。
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残念ながら今年は「指輪」の上演のない年だし、うちのドイツ人の好きな「マイスタージンガー」も今年はないし、直前に鉤十字問題のあった「さまよえるオランダ人」とめぎの大好きな「ローエングリン」はチケットが当たらなくて、以上の3公演のみを見に行ってくる。鉤十字問題やら非難囂々の演出やら、そういうどろどろを全て含めバイロイトだと思う。本番を映画上映する試みも始まったそうで、カタリーナ・ワーグナーが継いでから大きく転換中だ。でもめぎは今回、そこにゆっくり泊まって開演時間まで長丁場の楽劇に備えて体調を整え、真っ暗闇の閉じこめられた空間でその完璧に完成された音楽に陶酔するという、ワーグナーが考えた通りの楽劇の楽しみ方を実践してみるつもり。めぎたちのチケットは一枚35~40ユーロ程度の安い天井裏の桟敷席で、エアコンもない劇場でものすごく暑いとの噂。来週は暑くなるという天気予報だし、体調を崩さずに最後まで見続けられるかしら。
冬をうちのバルコニーで越した紫陽花から4つついた蕾のうち、2つめのが咲き始めた。初々しいこの色合いに心が洗われる気持ちがする。
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と言ってもまずはまっすぐバイロイトじゃなくて友人の結婚式に出席したりするのだが、そのようなわけでまた数日間皆様のブログ訪問はお休み。よろしければ「めぎはいまここ」をどうぞ。
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Baldhead1010

東京出張はひとり。

ひとりで飲む酒はおいしくないですね。
by Baldhead1010 (2012-08-11 04:26) 

mimimomo

やはり夫婦って趣味が一致しているのはいいことですね。
我家は全然だから・・・
by mimimomo (2012-08-11 05:39) 

Inatimy

私も古本を買ったら、前の持ち主のメモ書きが挟まれてたことが。
本への単語の書き込みも、私もよくやったなぁ・・・。 今でもそうかも。
Kleve にあるの、白鳥の騎士ローエングリンの伝説絡みのお城でしたね~。
ワーグナーは父が持っていたレコードでしか聞いたことがないので、バイロイトのお話聞かせてもらえるの、楽しみに待っています。 
お気をつけて。 楽しい時間を過ごされますように♪
by Inatimy (2012-08-11 05:44) 

ちばおハム

赤字黒字とも堪能いたしました。
あのチケットの公演がこれから始まるんですね。
わくわくします。

by ちばおハム (2012-08-11 05:48) 

HIROMI

めぎさんとドイツ人さんのなれそめが分かってしまった…(*^^*)ポッ
by HIROMI (2012-08-11 06:24) 

hatsu

めぎさんとドイツ人さんのお話、
素敵な物語を読んでいるようでした^^
旅のお話、楽しみにしています。
by hatsu (2012-08-11 07:34) 

塩

今日のワグナー関連のお話も興味深く拝見しました。
今後楽しみにしております。
私がバイロイトを訪れたのは1979年で、「さまよえるオランダ人」だったことを思い出しました。すごい拍手と足踏みでした。

by (2012-08-11 09:37) 

YAP

お二人のなれそめを初めて聞きました。
ロマンチックですね。
by YAP (2012-08-11 15:14) 

マリエ

ワーグナーが取り持つ縁、なんてロマンティックなんでしょ(*^-^*)
古本もまた素晴らしいです。暑さに負けず天井裏の桟敷席頑張って!
by マリエ (2012-08-11 20:47) 

テリー

ワーグナーが、共通の趣味って、すごいなー。
by テリー (2012-08-11 22:34) 

たいちさん

めぎさんの馴れ初めは、ワーグナーだったのですね。
by たいちさん (2012-08-11 22:41) 

もんとれ

今年「さまよえるオランダ人」を観て年越ししました。こういう記事が読めるのはめぎちゃんならではだなぁ。バイロイト記事を楽しみにしています。
by もんとれ (2012-08-12 04:26)